宗教は「痛みの体験」から始まる
エックハルト・トールが概念化してくれた「ペインボディ」。ほとんどの人が自分の中に抱へ込んでゐる、感情的な苦痛の集積。これをトールは「ペインボディ」と呼んだのです。
これに支配されると、これが自己意識の一部となり、それに条件づけられた人格が自分の牢獄となる。その牢獄から、人はなかなか抜け出ることができず、むしろペインボディに新しい糧を与へて、肥え太らせようとする。
その糧とは、どんなものか。感情的につらい体験が、ペインボディの好物です。それで適宜、自ら率先してつらい体験を取り込む。そのやうにして、我々は永続的にペインボディの囚人であり続けるのです。
考へてみると、キリスト教は「痛みの体験」から出発した宗教とも言へますね。
メシヤを自称したとして十字架に釘打たれ、血を流し、苦痛のうちに息を引き取つたイエス。その後、彼は復活し、昇天していつたとはいふものゝ、キリスト教はなぜか、十字架で苦しむイエスの姿を救ひのシンボルとして採用したのです。
トールはこんなふうに言ひます。
(とくに中世に)おびただしい人々がキリストのイメージに深く動かされたのは、自分自身のなかに共鳴する何かがあったからで、彼らは無意識のうちにキリストに自分自身の内なる現実――ペインボディ——の表現を見ていたのだろう。 (『ニューアース』) |
キリストは甚だしい苦痛を受けながらも、最後には、それを克服された。我々もそのかたに見習ひ、今は苦痛の中にあるとしても、いつかそこから超越したいものだ。さういふ願ひを、十字架のキリスト像にかけてゐた。
ところが実は、彼らの中のペインボディは、無意識のうちに新たな糧を求めてゐた。それが、あるときは「異端への弾圧」として、あるときは「魔女狩り」として現れた。無限の許しを説くはずのキリスト教において、許しではなく、さらなる痛みを求めたのです。
それは、キリスト教徒一人一人が、自らのペインボディから脱却できなかつたことを証してゐるのではないか。そのやうにも思はれます。
キリスト教だけではない。ほぼすべての宗教は、その勃興期において、さまざまな弾圧を経験します。するとそこに、その宗教集団としてのペインボディが生み出される。そしてそれを、その集団に属する人々が受け継ぎ、自らの内にペインボディを内在させてしまふ。
すると無意識のうちに、彼らも新たな痛みを求めてしまふ。救ひと安寧、平和な世界を求めながら、その一方において、痛みの体験を作り出してしまふのです。
家庭連合も、その例外ではないでせう。
かなり大きな苦痛から出発しました。文鮮明先生ご自身が、北朝鮮の強制収容所で2年8ヶ月の間耐えて解放されましたが、これだけではない。その前後合はせて、6回も牢獄体験をしてこられたのです。
それは当然、ペインボディを作り出したでせう。それを文先生がどれほど、どのやうに克服されたのかは、分からない。しかしそれが集団としてのペインボディとして生き残つてゐる可能性は高いと思ふ。連合に属する一人一人に内在してゐるといふことです。
それが克服されない限り、我知らず、新しい苦痛を求めてしまふことになる。かつてキリスト教が通過してきたやうな「異端弾圧」「魔女狩り」が発生しないとは言へない。いや実際、さういふことはすでに起こつてゐるやうに見えます。
集団的ペインボディをいかに克服するか。これは、我々一人一人の課題でもありますが、特に宗教的集団に課せられた重要な課題でもあると思ふ。
どのやうにしたら克服できるのでせうか。
ペインボディは、まづその人の思考を糧にすると、トールは言ひます。しかもその思考とは、幸せでポジティブな思考ではない。ネガティブな思考だけを栄養として消化するのです。
そしてそのネガティブな思考を出発点として、近くに誰かがゐれば、その人と対立関係を作り出し、闘争をして、さらに強い感情的な痛みを生み出す。それがペインボディの栄養になるのです。
それならまづ、ネガティブな思考から自分を解放しなければなりません。
そのためには、「真の私」とは誰か、といふことを思ひ出す必要があります。ペインボディを自分だと勘違ひしてゐる限り、この「真の私」は覆ひ隠されて見えないのです。
「真の私」とは、「今、こゝ」にゐる「私」です。「今、こゝ」にゐるとき、私には過去の記憶がありません。従つて、過去の痛みに左右されないのです。
こゝでまた、「思考をなくす」といふ課題が出てきます。「思考」は過去や未来に飛びたがるので、ペインボディの恰好の道具になるのです。
「思考」から離れて、「今」にだけ在る。これは、特に宗教者が率先して取り組むべき、最も重要な課題ではないかと思ふ。
過去の参考記事:
「ペインボディ」
「思考をなくす」

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