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「競はない人生」もある

kitasendo
2023-10-15

小林正観さんの長女は、知的障害を持つて生まれたさうです。子どもがなかなか授かれなくて、夫婦で待ちに待つて、やつと生まれたと歓喜したのも束の間、小林さんはショックで、半年間、世界から色が消えたと言つてゐます。

娘さんは体も弱かつたため、学校で毎年行はれる運動会でも、必ずビリです。

ところがある年、同じクラスの子が怪我をした。それでその朝、お母さんは思はぬ期待が生まれて、なんとなく嬉しさうだつた。

「生まれて初めて、この子が駆けつこでビリにならないかも」
と思つたのです。

正観さんは仕事で運動会には行けなかつたが、結果を気にしてゐた。帰つてきた妻の顔を見ると、いつになく嬉しさうな顔をしてゐる。

それで、
「今日は、ビリぢやなかつたの?」
と確認したところ、
「それがね、今日もやつぱりビリだつたのよ」
といふ答へ。

はて、それでなぜ、妻は嬉しさうなのか。わけを聞くと、かういうふことだつたらしい。

駆けつこの順番が、娘に廻つてきた。怪我した子も同じチームだ。一斉に走り出す。やつぱり、怪我した子は遅れて、ビリを一所懸命走つてゐる。

娘は、走りながら、ちらちらとその子を振り返りながら走つてゐる。そして、ゴール間近といふとき、何を思つたか、娘は引き返して、怪我の子のところまで行つて、手をつないで走り始めた。そして、ゴールに入るといふときに、その子の背中をポンと押して、先にゴールさせてしまつた。

それで今回も、娘はビリだつたといふのです。妻はその一部始終を、嬉しさうに正観さんに話した。

その話を聞いて、正観さんの頭にピーンと閃くものがあつたのです。

「世の中には、二つの生き方があるやうだ。一つは、競ふ生き方。もう一つは、競はない生き方。後者にも価値がある」

私はこの話を随分前に正観さんの本で読んだのですが、最近改めてそれを思ひ出し、正観さんのいふ「価値」とは一体どんな価値だらうかと考へる。

クラスの子どもたちの大半は、「競ふ子」です。彼らは、運動会となると、「勝ちたい。一番になりたい」と思ふ。

だから、駆けつこの順番が回つてくると、ゴールだけを見つめる。走り出したら、後ろなんか、絶対に振り向かない。

「怪我した子は、仕方ないから、ハンデを背負つて、できるだけ頑張つてくれ。自分は一番になりたい。一番になれば、自分も嬉しいし、組の成績にも貢献できる」

さう考へるでせう。

この子たち(つまり、大半の我々)は、どうしてかういふ考へ方をするのだらう。

もしかすると、かなりの割合で、子どもたちは必ずしも、
「一番になりたい」
とは思つてゐないかもしれない。

自分の実力では、どうせ一番なんかにはなれない。さう自己認識してゐるかもしれない。

しかし、運動会が始まり、自分が出発点に立つと、どうしてもゴールだけを見つめるやうになる。

なぜか、
「勝たねば。たとい一番になれなくとも、できるだけ上位に入らなければ」
と思ふ。

運動会といふシステムが、「競ふ」ことを前提としてつくられてゐます。出来栄えに応じて点数をつけ、それを足して、総合点で順位をつける。さういふシステムなので、その中で動く子どもたちは、否応なく、我知らず、「競ふ」者になるのです。

しかし、娘さんは多分、そのシステムの中に入らなかつた。意識してのことではなかつたでせうが、さういふシステムに馴染めなかつたし、価値を感じなかつた。

大半の子たちは、走り出したらゴールしか見ないのに、娘さんだけはゴールを見ずに、自分に伴走する者、あるいは自分の後ろを走つてゐる者を見てゐた。ゴールは自分だけができるだけ早く到達すべきものではなく、誰と一緒に到達すべきものかといふ考へだつたのでせう。

この世の中全体が、「大きな運動会」と言へるかもしれない。このシステムの中では、娘さんは間違ひなく「ビリを走る人」で終はるしかないでせう。

しかしそもそも、ゴールに誰よりも早く到達することに、どんな喜びがあるのでせうか。ゴールに早く到達できる能力を、「優秀」とか「才能」などと評価するのですが、それは私の人生をどれだけ豊かにしてくれるのか。

小林さんは、この娘さんが、
「競はない人生もある」
といふことを教へるために、我が家を選んで生まれてきてくれたと感じたさうです。

そして、娘さんの世界観に蒙を開かれた。それ以来、「競はない」人生を生きてみようと考へるやうになつたやうです。

小林さんは、こんなことも書いてゐます。

人生の後半に入つたら、「何を食べようか」から「誰と食べようか」、「どこに行かうか」から「誰と行かうか」に、軸足を移すのがいゝのではないか。

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