風の如く、てつこさん逝く
8月の中旬以降、記事の更新頻度がガタ落ちですが、特に20日以降の音無しにはかなり大きな理由がある。22日の未明に、母(てつこさん)が思ひもかけない速さで他界したのです。
この記事では、そのご報告と、葬儀を経て今に至るまでの私の心境を少し書いてみようと思ひます。
いつか遠からず来るものとは、だいぶ前から思つてゐたものゝ、その日はあまりにも急に来ました。
子どもたちには数日前から
「呼んだらいつでもすぐに帰つてこれるやう、仕事の段取りをつけておいてよ」
と伝へてはゐたのですが、実際には呼ぶ間もなかつた。
1ヶ月ほど前から食がぐつと細り、最後のショートステイから帰つたあと、10日近く便通が止まつた。元来通じのとても良い人だつたから、気がかりでした。
ところが、息を引き取る3日ほど前から通じが戻り、断続的に3日間少しづつ排泄があつたのです。今にして思へば、最後の準備に内臓の中を空にしようとする肉体の摂理だつたかもしれない。
この世での最後の日になつた21日は、いつも通りデイサービスに出かけ、午後4時半に帰宅。「昼ご飯はほとんど食べられませんでした」とのことでした。
その夜は私なりに夕食を準備したものゝ、開いた口にジュースを垂らしても、口はあまり動かない。
「明日の朝、もう少し食べられるやうになれば、助けに点滴をしたらいゝかも」
とやゝ希望的に思量してゐましたが、夜半になると、体がほとんど動かなくなつた。
手の先、足の先が少し冷たくなつて来てゐるやうでもある。呼吸も非常に浅い。
一旦布団に入つたものゝ、気になつて眠れず、午前2時過ぎに起きてもう一度様子を見に行くと、前に見た通りの恰好のまゝで体が固まつてゐます。
「あゝ、これはもうだめだな」
とさすがに思つたが、すぐには医者を呼ばなかつた。
何となく、夜明け近くまで二人で最後の時間を過ごしたい気がしたのです。それからは一睡もせず、てつこさんのベッドの横で過ごした。
肉体的にはほぼ確実に死んでゐる。体は少しづつ冷えていき、固まつていく。
口が大きくあいたまゝで、腕も足もかなり曲がつてゐるので、
「このまゝでは棺に入れるときに困るな」
と思ひつき、かなりの力で口を閉じ、腕と足を伸ばした。
目に見える体は確かに生気を失つてゐるのだが、てつこさんといふ「存在」自体は死んでゐないのを感じる。3次元的なコミュニケーションこそできないが、「存在感」はある。無言の対話はできるやうな気がするのです。
「これはもうだめだな」
と思つたとき、我ながらショックはほとんどなく、悲しいといふ感情もまつたく起きなかつた。
「よかつたねえ。やつと解放されたね」
といふのが、正直な気持ちでした。
その気持ちは、1週間経つた今も、変はらない。
「もう少しでも長生きさせてあげたかつた」
とか
「もつとあれをしてあげればよかつた」
などといふ気持ちも、まつたくない。
後悔もなければ、思ひ残しもない。
本格的な介護生活は約3年半。介護が始まつた当初から、私にはこの生活が少なくとも3年は続くだらうといふ予感があつた。逆に、3年以上はさほど長くならないだらうとも思つてゐたのです。
といふのも、孔子に
「服喪3年」
といふ教へがある。
親が亡くなつたら、親孝行な子は仕事も辞めて3年間はひたすら親の喪に服すべきだといふのです。
これに対して、弟子の宰予(さいよ)は、
「先生、いくら何でも3年はちよつと長すぎませんか」
と異を唱へた。
しかし私は、
「どうせ3年といふのなら、親が死んでから喪に服すより、生きてゐる間の3年間に孝を尽くしたほうが、もつといゝのではないか」
と思つてゐたのです。
だから介護生活の3年半は、私にとつて服喪3年の先取りのつもりだつた。しかし、この3年半の本質は、親孝行の3年半ではなかつたといふ気もしてゐます。
てつこさんは次第に弱つていく身を横たへ、目も見えない不便をかこちもせず、脳梗塞も乗り越え、私が準備するワンパターンの食事にも文句を言はず(むしろ感謝し)、3年半も頑張つて、私に「母を介護するといふ体験のチャンス」を与へてくれた。これが3年半の真実ではなかつたかと、思ふのです。
その期間が3年を過ぎ、それ以上あまり間延びがしない頃合ひを見計らつて、てつこさんは何の未練も残さず、風が頬を撫でてさっと吹きすぎていくやうに、あまりにも自然に逝つてしまつた。
「3年半も頑張つたから、お互ひに、もういゝでせう。あなたにも十分介護の体験をさせてあげたから、満足でせう。私も十分に責任を果たしたし、もうあとのことは心配ない。任せたよ。うまくやつて行きなさい」
さう言つて、てつこさんは93年の生涯と、3年半の介護生活に、自ら何のためらひもなく終止符を打つた。そんな感じがしてゐます。
葬儀とその直後の出来事については、次の記事で書きます。

にほんブログ村
- 関連記事
-
-
お前の親孝行は本質的道徳だな 2022/03/04
-
毎日新しい人 2022/12/03
-
私はちつとも知らないよ 2022/02/15
-
芳一の「ありがたう」 2022/02/25
-
スポンサーサイト
No title
ご冥福をお祈りいたします。
介護3年半、お疲れ様でした。。。