その問題の原因は私の中にある
カウンセラーは、悩みを抱へた人が訪ねてきたら、アドバイスをする。上司は、部下がヘマをしたら、注意をするか助言をする。父母は、子どもがおかしなことをしさうなら、忠告をしたり叱つたりもする。
カウンセラーも上司も父母も、自分の役割を弁へており、必要な場面ではそれを果たさうと思つてゐるのです。しかし、それは本当に彼らの役割だらうか。やゝ疑問に思ふところがあります。
カウンセラーとクライアントの関係を例に考へてみませう。
クライアントが何かの悩みを抱へて、相談に来たとします。悩みを聞いたカウンセラーは、問題がどこにあると考へるか。言ふまでもなく、クライアント自身にあると考へるでせう。あるいは、その人を困らせてゐる相手や環境に問題があると考へるかもしれない。
夢にも、自分に問題(の原因)があるなどとは考へないでせう。当たり前です。問題はクライアントが抱へてやつて来たのであつて、自分はその相談に乗つてあげるだけだ。さう考へるのがふつうでせう。
しかし、ふつうが必ずしも正しいとは限らない。
誰かが問題を抱へて私のところにやつて来たら、その問題の原因は私の中にある。さう考へるのが、より真実に近いばかりでなく、より効果的な問題解決の道であると、私は考へます。
そのことを最も端的に私に教へてくれたのは、モナ・ナラマク・シメオナといふ人です。彼女はハワイの人間州宝でもあり、ハワイの伝統医療を現代風に改良し、世界に広めた人でもある。
彼女もカウンセリングを受け付けてゐましたが、そのやり方は実に風変りです。
例へば、一人の女性が相談にやつて来る。モナは「どうしましたか」と問ひかけ、女性が話し始めると、話を聞きながら電話を取つたりコーヒーを淹れたり、あれこれと用事をするのです。面と向かつてちつとも話を聞かない。
ところが、30分ほども話すと、女性は
「ありがたうございます。とても気持ちが楽になりました」
と言つて帰つていくのです。
ふつうのカウンセリングでこんな態度であれば、相談者は怒つて帰つていくでせう。ところが、モナのやり方は一般の心理学とまつたく考へ方が違ふのです。
相談者が悩んでゐる問題の原因は、相談を受けるモナの中にある。それで相談日が決まつたら、その日までにモナが自分の中の原因を浄化する。だから、相談に来たときには、もう悩みの原因は解消してゐる。本当は相手の話など聞く必要がないのです。少しでも聞くふりをしてゐるのは、相談者の気持ちを慮つてのことに過ぎない。
モナの治療手法は、こんにち「ホ・オポノポノ」と呼ばれる。そのモットーは「すべての問題は、自分の中にその原因がある」といふものです。
本当にこのモットーの通りであるとすれば、我々は問題解決のために外側に働きかける必要がない。基本的には、自分自身の中での浄化で解決していくことになります。
「そんな、おかしなことがあるか。問題が自分の中だけで解決するはずがない。外側に何も働きかけないといふのは、むしろ責任放棄ではないか」
といふ反論があるかもしれない。
確かに、そんなふうにも見える。しかし裏を返してみれば、問題が起こつたとき、我々はあまりにも外側だけを見ることに慣れ過ぎてゐるのではないか。
「この問題は、あいつが悪い。あいつを何とかしないと、問題は解決しない」
と考へて、問題を外側に特定し、それを改変、処罰することで問題を解決しようとする。
しかしこのやり方では、モナによれば、問題は何一つ根本的に解決しないのです。
カウンセラーは、相談者が問題に気づき、対処すれば、問題は解決(改善)すると考へる。上司は部下の間違ひを正せば、事態は良くなると思ふ。そして父母は、人生の先輩である自分が与へるアドバイスが子どもを助けると信じる。
誰もみな、問題の原因は自分にはない、問題を抱へてゐる(やうに見える)人にあると思ひ込んでゐる。だからその人を良く指導すれば、問題解決に一歩近づくと思ふのです。
ところが実のところ、本当の原因には誰一人気をとめず、アクセスして対処しようとしないから、それは消えないまゝ残り続けるのです。

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