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透明になる

kitasendo
透明

「無我」「悟り」といふことを「透明になる」といふイメージで考へてみたいと思ひます。

「我を無くす」「悟りを得る」などは仏教的修業の文脈の中で語られることが多いわけですが、大半の我々日常生活者にとつて特別な修行などは無縁の話です。そこで、日常生活をしながら心霊的な成長をする道はないかと考へると、「透明になる」といふイメージが私には浮かんでくるのです。

「透明」になればなるほど、光をそのまゝ透過させるやうになる。それを外側から見れば、それ自体が周囲に溶け込んで限りなく見えないものになる。またそれ自体から見れば、どんな光も反射せず、抵抗せずに通過させてゐる。それが「透明」のイメージです。

ふつうの我々は、なかなか透明になれない。自分に独自の色があつて、それに合はない色がやつてくると、そんなものは通過させられなくて、反発し、ブロックしてしまふ。そんなふうだと、私の色は周りからはつきりと見え、自己主張が強くて存在感はあつたとしても、周囲とことごとくぶつかるといふことになるのです。

これをもう少し日常の具体に即して言ふと、
「不透明な私とは、私が正しいといふ立場を譲らない」
といふことです。

何か不具合があつても、「私は正しい」といふ立場を譲れないから、「私以外の誰が悪いのか」と探すことになります。そしてその悪いと思はれる人を糾弾し、その非を認めさせなければ、ことが収まらない。

その手続きに成功すれば「私は正しい」といふ立場がたもたれるのですが、何かしつくりしない気がする。何がおかしいのでせうか。

問題が起こるたびに、その原因を外に求めると、私は何も変はわらない。変はるべきは私の外の原因のほうだと思つてゐますから、そちらばかりを変へようとし、自分自身は一向に変はらない(成長しない)のです。

反対に「透明な私」とは、問題が起こつたとき、外のものに「変はれ」と言はず、率先して自分が変はる。これがどんな光もそのまゝ通過させるといふことです。反発してブロックしたりしないのです。

さういふ私を外から見れば、
「あの人は何でも自分の非を認めて、自分の意見がないみたい」
といふふうに映るかもしれない。

一見すると、何だか存在感のない、頼りない人に見える場合もあるでせう。「透明」といふ言ひ方には、さういふ意味合ひもあります。

しかし外からどう見えやうと、自分が「透明」であること、つまり、どんな意見も、どんな態度も、どんな状況も、これらをいちいち自分の正邪の基準で計らず、すべて受け入れ、飲み込んでしまはうとする自分の在り方。これが重要だと思ふ。

「透明」には何も中身がないやうに思へますが、実はさうではない。どんなものでも抵抗なく受け入れてゐるので、そこに抵抗がないから、すべてのものがありながら、何もないかの如く透明に見えるのです。

私自身、おばあちやんの介護をしながら、「透明になる」訓練をさせられてゐるなあと思ふことがよくあります。人生の妙味だなと思ふ。

最近では、おばあちやんは自分でも気づかずに、紙パンツにおしつこをたつぷり漏らしてゐることが多いのです。そばに寄るだけで匂ふから、すかせたり騙したりしながら、何とかトイレに立たせ、パンツを替へる。

お尻を拭くにも、オムツやズボンを履き替へさせるにも、手間取ることがある。するとおばあちやんは体力的にもだんだんと我慢できなくなり、声を荒げることがあるのです。

「何をしとるかね? 寒い! 早くせんと、死んでしまふ!」

さう言つて、本当に死んだふりをすることさへある。(これは可愛い)さういふとき、こちらの大変さ、正当性を主張しても、碌なことはない。

そのときは、今しようとしてゐることをありのまゝ伝へ、ひたすら「ごめんね」と謝るのです。「急いでゐるから、もうちよつと我慢してくれ」と言ひながら着替へを進めると、おばあちやんは次第におとなしくなる。

そして着替へがすべて終はつて寝かせ、元通り布団を掛けてあげると、
「ありがたうね。よかつた。しあわせ」
と言つてくれるのです。

この結末を見ると、私の対応が間違つてゐなかつたことが確認できたやうな気になります。

まあ、こんなことは、プロの介護士なら日常的に経験してゐることに違ひない。しかしかういふ「透明になる」努力が、母に対してだけでなく、介護の際だけでなく、いかなる人、いかなる場合でもできるやうになれば、これは日常生活における立派な修行ではないでせうか。

「無我」とか「悟り」といふと高尚な響きがあるが、結局、周囲を変へずに自分が変幻自在に変はれるやうになることではないかといふ気がするのです。

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