fc2ブログ
まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

心情蹂躙されない

2023/01/09
愛読作家たち 0
小林正観
心情蹂躙

「心情蹂躙をしない」
といふのは天法三大原則の一つだといふ。

「心情蹂躙」といふ言葉の意味するところはどんなものでせうか。「人権蹂躙」あるいは「人権侵害」といふ言葉はある。あるいは、SNS上で炎上を引き起こす「誹謗中傷」といふものもあり、だんだんうるさく言はれるやうになつた「ハラスメント」といふものもある。

何が「蹂躙」か。何が「侵害」で何が「誹謗」か。これはなかなか厄介な問題です。明確な定義がないだけに、これが言はれれば言はれるほど我々は戦々恐々となり、自ら過剰防衛をするやうになる。

その中でも「心情蹂躙」は特にむつかしい。

例へば、夫が妻に向かつて、
「お前はバカだなあ。そんなことも分からないのか」
と言つたら、妻から
「それは心情蹂躙です」
と訴へられたとする。

「お前はバカだ」
は確かに、ちよつとひどい気はする。

しかしもしかすると、夫にはそれほど悪気はないといふこともあり得ます。夫が育つた家庭では家族みんながざつくばらんで、かういふ言ひ方はふつうだつた。ところが妻のほうはもう少し繊細な雰囲気の家庭で育つた。それで言葉ひとつにも感性の違ひがあるかもしれないのです。

それでも、妻からさう言はれて夫は初めて
「かういふ言ひ方をすると、妻は傷つくのか」
と気づく。

そしてさういふことを繰り返すうちに、夫はだんだんと学習し、妻を傷つけないやうに言ひ方を改めるやうになる。このやうな場合、夫は「心情蹂躙」の罪に問はれるでせうか。

ナイフで人を刺す。詐欺で人を騙す。SNSで「お前みたいな奴は死んじまへ」と誹謗する。かういふのなら本人はもとより、第三者にも分かりやすい。しかし「心情蹂躙」といふのは、ナイフも使はず詐欺もしないから、微妙で分かりにくい場合も多いと思ふ。

敢へて言へば、当人が
「私は心情蹂躙されました」
と訴へなければ分からない場合もあるでせう。

さういふ場合、当人の訴へがなければ「心情蹂躙」といふ事実もない。被害者がゐなければ罪も成立しないといふことです。

私は以前、小林正観さんの本を読んで唸つたことがある。概略、こんな話だつた。

問題解決の方法には大体3つある。一つは、問題を起こした人を私が力づくで変へてしまふ方法。二つ目は、その問題を気にしないといふ方法。そして三つ目は、その問題が気にならないといふ方法。方法として最上なのは三つ目である。

一つ目の方法は、自分は変はらず、相手を自分に合はせて変へようといふ方法です。これは問題が起こるたびに強権を発動しなければならないので大変です。一見、即効があるやうに見えて、そのうち疲れてヘトヘトになるでせう。

二つ目の方法は、いちいち相手を変へようとしない。一つ目よりはましに思へる。しかし問題自体は神経に障つてゐるので、どこか無理がある。ストレスが溜まる。

三つ目の方法が最上だといふのは、問題自体が神経に障つてゐないところにある。しかしこれは簡単ではないでせう。

例へば、
「お前はバカだなあ」
と言はれて、気にならない。

むしろ、
「さうなんです。私はバカなんです。バカと言はれると、私は何だか力が出る
といふふうにでもなれば、その人にとつて問題がないどころか、却つて嬉しいことになる。

小林さんはかういふところまで提案するのですが、そんなの無理でしよ、といふ気がします。この話を読んで以来、私もときどき思ひ出して自分を振り返つてみるが、やはりなかなかそんな境地にはいかない。

しかし子細に見ると、徐々にではあるものの、「気にならない自分」になりつゝあるなと思ふことがあるのです。

例へば、おばあちやんは大抵「ありがたうの人」なのですが、まれに、扱ひ方が気に入らなくて「バカ!」と声を荒げることがある。

昔なら、
「私はバカではない。こんなに世話をしてあげてるのに、バカとはなんだ!」
と瞬間的に思つて、反論したり、皮肉を言つたり、扱ひがぞんざいになつたりしたものです。

ところが最近は、「バカ!」と言はれて、あまり腹が立たない。「悪かつたねえ」と言ひながら自然に対応していくと、おばあちやんはだんだん静かになる。二度と「バカ!」とは言はない。

もつともこれはまあ、かなり緩いケースと言ふべきでせう。

だから一概には言へないものの、私は
「心情蹂躙しない」
といふ天法は、むしろ
「心情蹂躙されない」
といふふうに変へたほうがいゝのではないか(あるいは併記するか)といふ気がするのです。

たいていの罪は加害者が作るもののやうに思はれますが、「心情蹂躙」については公平に見て、その半分は被害者(蹂躙されたと思ふ人)の側に責任があると言つてもいゝのではないでせうか。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 家庭連合へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト



Comments 0

There are no comments yet.