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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

丁寧に、丁寧に

2022/12/19
世の中を看る 0
双雲

書道家武田双雲さんにとつて、最も身近で効果的な幸福の条件はヘアドライヤーだといふ。

ヘアドライヤーは温風を出して濡れた髪の毛を早く乾かすための道具。だからそれを使ふとき我々はふつう「早く乾け」としか思つてゐないでせう。

ところが双雲さんは、ドライヤーから出てくる風を丁寧に丁寧に感じながら使ふと、とても幸せな気持ちに満たされていくといふのです。スイッチ一つでさへ何気なく押さない。

「聖なる風よ、出でよ」
と言つてスイッチをオンにするといふのです。

そのやうに扱ふと、ドライヤーから出てくる温風は単なる「髪の毛速乾」の手段ではなくなる。それを受ける者を幸福にする「聖なる風」になるのです。

数千円からでも手に入るやうな簡単な機械から、どうして「聖なる風」が出てくるのか。秘密は「丁寧に、丁寧に」にあるやうに思はれます。

どんなものでもそれに意識を集中し、「丁寧に」接すると、それ自体が持つ価値を最大限に顕はすやうになる。これを最近では「マインドフルネス」とも呼ぶやうです。

幸福はどこにあるか。つねに、「今、こゝ」目の前にある。そこ以外にはない。これを我々は勘違ひすることが往々にしてある。

例へば、
「自分の欲望が満たされてこそ、幸福を感じる」
と考へる。

最新の車がほしい人は、大金を積んででもそれを手に入れてこそ幸福になる。
結婚したい独身者は、良い相手を見つけて結婚してこそ幸福になる。

一応もつともな話に聞こえます。しかしこれを逆に考へれば、欲望が満たされるまでは幸福になり得ないといふことになる。欲望があればあるほど、幸福は「今、こゝ」にはなく、欲望が満たされる「いつか来る」未来を待つしかないのです。

さういふ人は、何の変哲もないドライヤーから聖風が出るなどとは考へもしないでせう。私も考へてみたことがなかつた。双雲さんの話を聞いて初めて、「さういふこともあり得るのか」と気づいたのです。

さうかと言つて、何も欲望を否定する必要はないでせう。欲望は個人の成長を支へ、社会の発展を促す。

ただ、欲望を持ちながらも、幸福はやはり「今、こゝ」にしかない。だから、「今、こゝ」の幸福を感じながら、そこからさらに向上する未来を見つめる。さういふバランスが大切と言つたらいゝでせうか。

「今に感謝する」
と私も考へてきたのですが、その内的な心持ちは「丁寧に、丁寧に」といふ「今、こゝ」を慈しむ外的な行為として現れる。

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