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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

「自由料金」の思想

2022/07/21
世の中を看る 0
候補者

思ひがけないいきさつで手に取つた
『「違うこと」をしないこと』(吉本ばなな)がとても面白いので、もう少し書いてみようと思ひます。

「宇宙マッサージ」といふのはこの本で初めて知つた治療法です。どんなマッサージなのか、実際の様子は知らない。誰でもできるといふものでもないやうで、今のところは創始者である白井剛史さんただ一人だけの独特なものなのだと思ふ。

面白いのは、この治療の料金体系。決まつた料金がないのです。

病院なら、初診料いくら、診断料いくら、薬代いくらと決まつたものがあるでせう。そして年齢によつて自己負担率も決まつてゐる。

民間の治療院でもたいていは料金が予め決めてある。30分でいくら、1時間でいくら。この器具を使へば追加料金いくら。といふ具合に。

ところが「宇宙マッサージ」は一定の料金設定がなく、自由料金。治療を受けた人が「この治療結果ならいくら払はう」と自分で決めて、その額を支払ふのです。

その自由料金について、
「それこそ富豪が島をくれてもいいし、小銭しか渡せなくても出世払いします、と言ってくれたりするのも、すごく嬉しかったりする」
と言つてゐます。

実際、どういふことが起きるか。

治療のクオリティに対して感じた料金をもらふといふことになれば、クオリティが上れば上がるほど受け取る料金もふえる。それで治療師はひたすら自分のクオリティを上げていくことにやり甲斐を感じる。と同時に、それぞれの人がどれくらゐの料金を渡してくれるかで、その人の感性や性質なども洞察できる。

言はれてみると、予め治療代の決まつてゐる治療といふのは、限界を持つてゐる。その料金のレベルに縛られてルーティンになり、その治療代の範囲内での治療になるのではないかと思へるのです。

「この治療にはこれだけかかります」
といふのは、逆に言へば、
「この料金なら、これだけの治療しかしません」
といふことでもある。

考へてみると、これはこの独特の治療に限つた話ではないやうな気がする。時代といふか、世の中全体がさういふ方向に動いていかないといけない。実際、動き始めてゐるのではないか。「うねり」のやうなものを感じます。

例へば、今回の参議院選挙。

今回、予想通り、与党は安定的な勝利をおさめたやうに見えますが、その強さはどこになるのか。与党が長年関係を維持してゐる数多くの支持団体です。

全国郵便局長会をはじめ、医師会、建設業界、農業関連、宗教団体など、主だつたものを挙げただけでも優に十指にあまる。それらが集票マシンとなり、政権与党とギブアンドテイクの関係を持ち続けてゐるのです。

与党だけではない。野党もそれぞれ少数ながらも支持団体を持ち、選挙のたびにその団体の票を当てにする。多くの議員は、それなしには当選が危うい。

さういふ政治風土は何をもたらすか。

従来の医療と同じで、
「当選のためには、この団体の票が必要です」
といふのは、
「これだけの票なら、それに見合ふ政治しかしません」
といふことでもある。

自分の政治家としてのクオリティによつて票を集めるのではなく、すでに決まつた利害関係の力で票を集める。さういふふうにして当選した政治家は、その票の範囲内でしか政治活動をしないでせう。支持団体が決まつてゐるなら、敢へて自分のクオリティを上げる必要はないからです。

さういふ長年の政治風土が日本の政治を滞留させてきた。

それに気づかせてくれたのが、例へば今回、岡山選挙区で若手の女性候補が公明党の支持を蹴りながら、それでも大勝したといふ事例です。これは、候補者のクオリティが上ればそれに見合つて票が集まるといふことを証明して見せてくれたと思ふ。

もう一つは、結成間もない参政党がかなり躍進したことです。戦略的には支持団体を一切もたないことを公言して戦つた。その結果、1議席を獲得するにとどまつたものの、日本の政治風土に風穴をあけてくれるかもしれないといふ期待を集め、全国比例で170万票あまりを獲得したのです。

これも私なりに思ふと、
「我々は政治家のクオリティに期待する。クオリティが上れば上がるほど、我々はそこに票を投じたい」
といふ選挙民たちの願望の現れです。

自らのクオリティに期待を受けて当選した代議士たちは、当選後必ず自分のクオリティをさらに高めようとするでせう。さうすれば、次の選挙でさらに多くの票を間違ひなく獲得できると確信するからです。

これからの時代は、支持団体の票がどんどん減り、候補者は自分のクオリティで浮動票を集める。選挙民も自分の所属する支持団体の意向などに縛られず、自分が本当に惹かれるクオリティをもつ候補者に1票を投じる。

さうなつていけば、日本の政治風土にも新鮮な血液が流れ始めるやうな気がする。

「自由料金」の思想です。

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