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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

人生100年時代の希望

2022/05/26
永遠に生きる 0
しゃけ

ある人生相談に
「人生100年時代に絶望してゐます」
といふ相談が寄せらたのを読みました。

相談者は40代の女性かと思はれる。人生の半分も生きずして絶望とは、ちよつと気の早い人です。

彼女は学生のころから
「死ぬときに思ひ残すことがないやうに」
といふ気持ちで、必死に生きてきたと言ふ。

その後仕事にも就き、結婚もし、子どもも何人か生んで、家も建てた。人生における大きなライフイベントは大体終へ、「やるべきことはやり尽くした」といふ気がしてゐる。

やり尽くした今はどうかといふと、育ち盛りの子どもは可愛く、それなりにささやかな幸せは感じる。しかし毎日は、仕事、育児、家事の繰り返しで、つまらない。目標が見当たらなくなつたやるせなさを感じる。

こんな目標もない生活をこれから50年以上続けていき、ただ歳を取つて老年期を迎へ、
「家族や周りに迷惑をかけないでね」
と言はれてしまふやうな「長生きリスク」を抱へて生きないといけないのか。

老年期の両親を見ても、歳とともにだんだん仲が悪くなるし、他を見ても「羨ましい、あゝなりたい」と思ふやうな先輩が見当たらない。私はこれからどうしたらいゝのでせうか。

さういふ相談です。

信長は「人生五十年」と言つたし、その状況はついこの前の大戦が終はるころまで続いてゐた。それが戦後急速に平均寿命が延びて、女性は今や90歳に近くなり、100歳に達する人も少なくない前代未聞の時代となつたのです。

50年が100年になると言へば、2倍です。昔の人が人生を2回生きるやうなものです。寿命が延びるのは悪いことではないやうにも思へるが、この相談者は「長生きするほど、リスクが高まる」と感じる。

確かに長生きをとめることはできないが、最期はだいたい人の世話にならざるをえない。その期間が長くなればなるほど、本人も辛いが、周りの負担も増える。これは確かにリスクと見ても間違つてゐるとは言へないでせう。

しかし40代の相談者にとつて、このリスクは差し迫つた懸念ではない。それなら、この人の目下の悩みの中心は一体何でせうか。

家を建てるまでは、人生に充実感があつたし、生きがひも感じてゐた。ところが、それで主要なライフイベントが終はつたと感じる今となつては、何だか心が満たされない。仕事、結婚、出産、持ち家には価値を感じられるが、日々の家事や育児にはさほどの価値が感じられないといふのです。こゝに彼女の悩みがあるやうに見えます。

この悩みに回答を書くといふ立場ではない。私なりに100年人生について少し考へてみようと思ひます。

人生が100年なら、人生50年時代から見て、50歳が折り返し点とも、第二の人生の始まりとも言へます。この人生は50歳までの人生の単なる延長ではなく、その質も意味合ひも違ふと考へたらどうかと思ふ。

第一の人生はこの世の知識や知恵を習ひ、それをもつて社会に出て能力を発揮し、貢献をする。結婚をして子どもも生み、家庭を営む。必要なら家も建てる。肉体には力があるから、活動的でいゝ。活動の中に喜びと生きがひを感じる期間です。

ところが第二の人生に入ると、体力の衰えとともに、社会活動は次第に減つていく。喜びを見出すところが、自然と変はつていきます。

外に向かふ活動ではなく、もう少し穏やかで日常的なルーティンの中に、それまであまり感じなかつた価値や喜びを発見していく。子育ては体力もいるし、気も張る。しかし孫ならづつと穏やかでせう。

それまであまり関心を向けなかつた日常的な自然の変化にも、こまやかな美を感じるやうになる。スケジュールに追はれる生活ではなく、心が赴くことを優先できる。

かういふ変化は何かと言ふと、「永遠への準備」だと思ふ。

相談者は、老後を「長生きのリスク」と懸念したけれども、いづれ我々はみな「終はりのない長生きの世界」に入るのです。そこでは改めて結婚することもない。出産もない。家を建てることも、そのローンを返済することもない。

さういふ「永遠の長生きの世界」をどのやうに飽きず、楽しく生きればいゝのでせうか。

鮭が生まれ、海で育つて故郷の川に戻るとき、海から川へ急に泳ぎ進むのは危険です。塩分濃度が違ふので、体が耐えられない。それでしばらく河口あたりで体を慣らすのです。

生まれたときに味はつた真水の味を思ひ出し、それに慣れるための河口生活。それに当たるのが第二の人生の重要な意義だと思ふ。

「永遠の長生きの世界」では、変はらないものに価値を感じる。あるいは、変はらないものが常に新しく感じる。さういふ感性が必要でせう。

さういふ感性をどう育てるか。それを意識すれば、第二の人生には第一の人生にはなかつた生きがひがあるのではないでせうか。

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