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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

実演が9割

2022/05/05
世の中を看る 0
カップラーメン

『売り方が9割』(小川忠洋)の帯には、
「いくら素晴らしいものを作っても、伝えなければ無いのと同じ」
とある。アップルの創業者、スティーブ・ジョブズの言葉ですね。

そして、売り方の工夫で売り上げを大きく伸ばした実例が39個紹介されてゐる。その中の一つ「カップヌードル」にはこんな物語があるさうです。

今では日本はもとより、世界中で年間数十億個も売れるメガ商品だが、当初アメリカ進出で苦戦した。アメリカは日本と違ひ、ラーメン自体に馴染みがないのです。

日本人営業マンはこの壁をどうしたら越えられるか悩みに悩み、一つのアイデアが閃いた。アメリカ人に売るのはラーメンではない。中身は同じでも、視点を変へる。

この商品は、具の多いスープです。

スープならアメリカ人に馴染みがある。キャッチフレーズにこの一言を付け加へただけで、売り上げは急速に伸びたといふのです。なかなか興味深い話です。

本書は「売り方」「伝へ方」に焦点を当ててゐるので、帯の後半「伝えなければ無いのと同じ」が強調される。それはそれで参考になるのですが、こゝでは帯の前半「いくら素晴らしいものを作っても」に注目して考えてみたい。

商品がヒットするには「売り方」の工夫に依るところが大きいとしても、その大前提はその商品の質が良いことでせう。質が悪ければ、キャッチフレーズを信じて一度買つた人も決してリピーターにはならない。それと同様、商売も含んだ我々の人生全体も、根底にある課題は「いかに素晴らしいものを作るか」といふことだと思ふのです。

例へば、好きな人を見つけて結婚にまで持ち込まうとするやうな場面はどうでせう。一人の人間としては、どんな商品をヒットさせるよりも巧みな「売り込み」が要求される局面ですね。

どちらから求婚するにせよ、相手に自分を売り込んで、相手をその気にさせる必要がある。その際、「私と結婚したら、こんなメリットがありますよ」と、うまいキャッチフレーズを駆使して自分の価値を巧みにプレゼンしなくてはならない。

ところが、そのプレゼンが成功してうまく結婚に持ち込めたとしても、本当の問題はそこから始まる。夫婦になり一緒に暮らし始めてみると、「商品としての私の質」が問はれるのです。プレゼンだけがよくて質が伴はなければ、相手はリピーターになつてはくれない。幸福な結婚生活は永続しないのです。

結婚に限らない。一事が万事です。人生の課題は「いかに素晴らしい自分を作るか」だと言つていゝでせう。そして大半の場合、巧みな「売り込み」はさほど必要でも重要でもない。

■ 人生はプレゼンではなく、実演

実生活の中で、人は相手のプレゼンを重視しない。それよりも「この人はどんな実演をするのか」を見るのです。

実演とは、日々の態度です。私が困つてゐるとき、この人はどんな態度を取るのか。助言をくれるのか。優しく寄り添つてくれるのか。それとも却つて距離をおくのか。その態度に、その人の「質」が自ずと現れます。

プレゼンは飾ることができる。しかし、実演は飾ることも誤魔化すこともできない。内なるものが自ずと外に現れるのです。

政治家はときどき「失言」をして炎上することがある。政治家だけではない。我々一般もしばしば「失言」する。

指摘されると「失言をして誤解を招いた」と言つて謝罪するものの、あれは本当のところ「失言」でもなく「誤解」でもない。大体は「本音」なのだと思ふ。意図的につく「嘘」以外は、大体「本音」と言つていゝでせう。

人は基本的に「本音」しか言はない。「建前」を言ふにしても、「建前」といふ「本音」を言つてゐる。その意味で、人は正直です。巧まずして人は「実演」しながら生きてゐる。だから「いかに素晴らしい自分を作るか」に専心するしかないと思ふのです。

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