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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

妻が遺した離婚届

2022/04/20
鑑賞三昧 0
持続可能な恋

父親役の松重豊さん、娘役の上野樹里さんが主演で良い味を出してゐる。TBSで今週から始まつたドラマ「持続可能な恋ですか?」の話です。

副題が「父と娘の結婚行進曲」とあるとおり、父娘が同時進行で婚活を始める。第1話を見たばかりで、これからどんな展開になるのか分からないながら、私にとつて印象的な秘密が明かされる場面があつたのです。

沢田林太郎は2年前に愛妻に先立たれる。娘の杏花(きょうか)は年頃だが結婚願望がない。

妻の3周忌を終へて自宅に帰つた林太郎は、意を決して妻が残した衣服を整理しようと言ひ出す。クロゼットから出した服のポケットに何か重いものが入つてゐる。

取り出してみると、それは国語辞典(林太郎は三省堂の辞書製作者)。分厚い封筒が挟んである。表には「林太郎さんへ」と妻の字でしたためてある。

妻が一体何を書き遺したのかと、緊張が走る。横から娘が覗いてゐる。「夫への感謝の手紙だらうか」と私は一瞬思つたが、林太郎が開けてみると「離婚届」である。

妻の側にはしつかりと名前が書き入れてある。林太郎は一気に固まる。

数日前、
「結婚つて何よ。お父さんなら辞書に何て説明文を入れるの?」
と娘に聞かれて答へが出なかつた林太郎だが、心の中では
「妻と一緒にゐて話をしてゐると、俺はほんとうに幸せだつた」
と思つてゐる。

妻も当然さうだつたらうと思つてゐたら、妻は内心、離婚をしたがつてゐたとは。これは林太郎にとつて、妻が死んだこと以上のショックだつたに違ひない(と私は思ふ)。

ところが、である。

数日たつて、林太郎は突然
「俺はこれから婚活パーティに参加する。お前と連名で予約を入れたから、一緒に行こう」
と杏花に言ひ出すのです。

杏花は驚く。
「お父さん、ショックだつたのは分かる。だけど自棄(やけ)になるのはやめて」
と止めるが、林太郎は聞く耳を持たない。

さて、婚活パーティーの当日。ちよつとしたいきさつで激高した林太郎は、倒れて腰を痛めてしまふ。念のために病院で診断を受けたほうがいゝといふことで、杏花が林太郎のカバンを開けて保険証を探してゐると、先日の封筒が出てくる。

離婚届はそのまゝ入つているが、よく見ると別に1枚の手紙も入つてゐる。母陽子の最期の思ひが綴られてゐたのです。読んでみると、それが意外な内容だつた。

「この手紙を読んでゐるといふことは、気持ちの整理がだいぶついたといふことですね。お父さん、私のプロポーズを受けてくれてありがたう。私はとつても幸せでした。私が死んだら、今度はお父さんがプロポーズしたい人を探してください。私は大丈夫。あの世で結構うまくやつていきますから」

妻はこの世の結婚生活に満たされてゐた。死んでまで愛する夫を縛りたくはない。だから死ぬ前に離婚届に自分の名前を書き遺した。最期の愛で、妻は夫を解放したのです。

「だからお父さんは、すぐに婚活パーティなんか申し込んだのか」
と、そこで杏花も腑に落ちたのです。(それにしても気が早すぎると思ふのは、やはりドラマ)

離婚届は、新しい夫婦関係を練り直すための仕切り直し。

「場合によつては、さういふ愛もありなのか」
と思ふ。

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