未来が過去を変へる
量子力学の分野で有名な「二重スリット実験」があります。私自身この分野の門外漢なので、いかにも素人らしい説明になることを予めお断りしておきます。
光源と衝立を準備し、その間に板を立てる。その板に2本の細長い縦の穴(スリット)をあけ、光源にスイッチを入れる。すると光は2本の穴を通過して、衝立に2本の縦の縞ができるはずと思はれます。
ところが実験してみると、衝立に現れたのは2本の縦縞ではなく、濃淡のある何本かの縞模様だつた。こゝで実験者は首をひねる。
「光が細かな粒子であるなら、衝立には2本の縦縞ができるはず。それが何本かの縞模様になつたと言ふことは、光は粒子ではなく波の性質を持つてゐるのか?」
実験者はそれを確かめるべく、スリットのそば(光源側)に観測機を設置する。光が粒として一つづつどちらかのスリットを通過してゐるかどうか、観察しようと考へたのです。
ところが、こゝでまたしても予想外のことが起こる。観測機を作動させたとたん、衝立にできる縞は2本に戻つたのです。

「観測してゐないときには光は波のやうな振る舞ひをする。ところが観測を始めたとたん、光は粒子に戻る。これはどういふことか?」
「観測」といふ行為が光の性質に影響を与へたかに見えるのです。擬人化して言へば、自然のまゝでは波であつた光が、誰かに見られてゐると気づいたとたん、波の正体を隠して粒子に戻つたやうに見える。
これが二重スリット実験の不可解なところです。
「観測(意識)が現象(現実)を変へる」
と言つてもいゝやうに見える。
そこで別の実験者がさらに工夫をしてみた。観測機をスリットの光源側ではなく、衝立のすぐ近くに設置してみたのです。これなら、光はスリットを通過するその瞬間には観測されない。光は波動性を現して、衝立には縞模様ができるのではないかと想定したのです。
最初は観測機をオフにする。そのときは衝立に縞模様が現れる。(光の波動性)そこで今度はオンにすると、縞模様は消え、2本の縦縞に変はる。(光の粒子性)再びオフにすると、また縞模様に変化する。

この実験を通して、光がスリットを通過する前に観測しても、あとに観測しても、光は観測自体によつて様相を変へるといふことが分かつたのです。これはいよいよもつて不可解ですね。
この実験結果をそのまゝ受け入れようとすれば、我々がこれまで常識的に信じてきた時間による因果律を疑はねばならなくなる。つまり、時間的にあとの事態によつて、時間的に前の事態が変はつてしまふといふことです。
このことの不可解さを分かりやすくするために、スリットと衝立の距離をぐつと伸ばして「1光年」にしてみませう。すると、1年あとの出来事が、それより1年前の出来事を変化させてしまふといふことになる。
つまり
「未来が過去を変へる」
といふことになるのです。
そして先ほどの
「意識が現実を変へる」
といふこと。
どうでせうか。どちらも常識から外れるやうに見える。
それはあくまでも光子のやうなミクロの世界の話。我々がふつうに生きてゐるマクロの世界とは違ふだらう。そのやうにも仮定することができるかもしれない。しかし少なくとも、ミクロの世界では観測自体(見るといふ意識)が現象を変へると同時に、時間の因果律が逆転すると考へざるをえないのです。
「意識が現実を変へる」といふことは、一部ではずいぶん前から注目されてきました。「意識すれば意識したものが引き寄せられる」といふ「引き寄せの法則」などもその一つでせう。
一方「因果律が逆転する」といふのは、まだ大多数の人にとつて信じ難いでせう。時間は過去から未来に向けて直線的に流れてゐると何となく思はれてゐます。
だから
「過去は変へられないが、未来は変へられる」
とよく言はれるのです。
しかしこれもいづれその内、
「未来は変へられないが、過去は変へられる」
といふふうに逆転するかもしれない。
例へば、今の科学的宇宙論によれば、宇宙は大爆発から始まり、百数十億年をへて人類が現れたとみます。創造論では、神は人間の創造を最終的な目的にして宇宙を創造し始めたと考へるものの、宇宙の進化過程を過去から未来へと流れる時間軸の中で捉へる点では、科学的な見地と同じです。
つまり、最初の爆発で生じた元素がそれ自体の法則(創造原理)に従つて発展して宇宙を創り太陽系を創り、地球を創つてその上に人間を創つた。生命の誕生も人間の進化も、奇跡的なほどに絶妙なバランスの上に生じたと、考へるのです。
しかし「逆転した因果律」で考へれば、爆発から百数十億年後に人間が現れ、最終的に「意識」を持ち、科学的見地から考察し始めることによつて、最初の爆発が遡つて規定された。そんなふうにも想像してみることができます。
ミクロ世界の神秘はいまだほとんどベールがはがされてゐない。
その不思議は
「我々の意識とは、一体何か」
といふ、この世で最も興味深いテーマに貴重な一石を投じてくれるもののやうな気がします。

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