人生の真諦とはこのことだ
ソクラテスの弟子たちがその師に
「人生の真諦は何でせうか」
と尋ねたとき、師は彼らを果樹園に連れて行き、次のやうに指示したのです。
「果樹の列に沿つて端まで歩いて行き、途中で自分が一番大きいと思つた果物を1個だけ取りなさい。後戻りはいけない。選ぶチャンスは一度だけだ」
弟子たちは指示の通りに歩いて端に着いたとき、ソクラテスはすでにそこで待つてゐた。そして「みな、それぞれ一番大きなものを取れたかな?」と訊くと、弟子の一人が「もう一回チャンスをもらへませんか」と要求した。
「歩き始めて間もなく、とても大きなのを見つけたのですが、もう少し先にはもつと大きなのがあるかもしれないと思ひ、取らなかつたんです。でも最後まで来てみると、やつぱりあのときのが一番大きかつたのが分かりました」
それを聞くと、ほかの弟子たちも口々に同じ要求をし始める。ところがソクラテスは頭を横に振りながら答へた。
「それはできない。二度目はない。人生の真諦とはこのことだ」
本当にあつたことかどうか分かりませんが、なかなかうまくできた話です。
今、かなり大きな果物が手の届くところにある。その大きさを過去に見たものと比べることはできても、これから先にあるものと比べることはできない。一つしか取れないとなれば、さてこれを取るべきかどうか、大いに迷ふところです。
過去のものはもはや選び取れない。未来のものは不確定である。手を伸ばして取れるのは、今のものしかないのです。
こゝでソクラテスの真意は、「勘に頼れ」とか「思ひ切れ」などといふことではあるまいと思ふ。
敢へて言へば、
「人生にはつねに『今』しかない」
といふことだらうと思ふ。
かりに果樹園の真ん中あたりに一番大きな果物があることを人生に喩へれば、40歳ころに人生の転換期が来る。ところがそんなことは40歳になるまで分からないし、もし分かる術があつたとしても、それで40歳までに何かより良い準備ができるだらうか。
人生が俯瞰でき、もし先のことが分かると、むしろ今日の生活はその質が落ちるやうな気がする。40歳で出会ふであらう大きな果物のことばかりが気にかかり、今日目の前にある果物の良さが見えなくなると思ふのです。
何歳で結婚相手に出会へるのか。何人子どもを生めるのか。大病はしないだらうか。今後、株価は上がるのか下がるのか。
さういふことのどれも、我々にはふつう分からない。そしてその分からないのがいゝのだと私は思ふ。
しかし分からないのは、やはり不安です。それで悩みが募り、先行きが見通せないとき、占ひとか予言に頼ることがあります。どこに一番大きな果物があるか、自分には分からないので、それを教へてもらはうといふわけです。しかしこれはソクラテスが想定した人生のルールを逸脱するもののやうに見える。
だから多分、飛躍論理的な先読みをソクラテスは嫌ふと思ふ。ダイモンから「お前の運命を教へてやらうか」と言はれても、拒否しただらうと思ふ。ただ、予言の能力を神から授かつたと自称する人もゐるから、予言の類を無礙に否定もできない。
どう考へるか。皆さんの参考に、一人の著名な予言者を紹介しませう。
予言者は米国在住のジュディ・ヘベンリ(Judy Hevenly)。かつてレーガン大統領も頼りにしてゐたと言はれる大物予言者です。
もともと子どものころから霊感の鋭い子だつたが、あるとき神様の声を聞いた。
「お前の才能を、もつと多くの人のために使ひなさい」
と言はれて、米国に渡つたさうです。
彼女は毎年、その1年の予言をする。予言分野は多岐にわたつてゐます。いくつか実例をあげませう。
パンデミックは今年中に収束する。地域的には問題が残つても、全体的にはポスト・コロナ・ノーマルに戻る。
プーチン大統領は突然の病気で倒れ、ロシアは混乱に陥る。彼は永年大統領を目指してゐるかもしれないが、年齢はすでに69歳。ロシア人男性の平均寿命まで残すところあと数年です。ウクライナ情勢はどう推移するか。
バイデン大統領は今年後半、健康問題が起こる。バイデンこそ80歳を超える高齢ですから、これは予言でなくても十分に考へられるでせう。
日本についての予言もあります。日本は遠からず核保有国になる可能性がある。これについては、日本には頑なな「非核三原則」がありますが、最近安倍前首相がいよいよ「核共有」議論を始めたから、これが進めばいゝと思ふ。
このやうな話を聞いて、我々がいつ、どのやうな果物を選び取るかの参考になるだらうか。

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