ヒューレン博士の遺産

先日、イハレアカラ・ヒューレン博士の訃報を目にした。享年83歳。

博士はハワイ発祥の意識浄化システム、ホ・オポノポノの先駆者の一人です。私も実際のセッションにこそ参加したことがなくても、著書を通してずいぶん勉強させてもらひました。このブログにも記事をだいぶアップしてゐます。

「私の体験は記憶の再生である」
といふのが、このシステムの基本認識だと私は考へてゐます。

潜在意識（ウニヒピリ）に過去からの膨大な記憶が貯蔵されてゐる。その中の記憶が縁に触れて再生されてくるものを、我々は「体験」と感じてゐる。それが日々の生活であり、積もり積もつて人生の中身になる。

（因みに、仏教の「因縁思想」は的確です。自分の中にある「因（記憶）」が何らかの「縁（出会ひ、出来事）」に触れたときにさまざまな体験が生まれる）

それなら、記憶再生の意味、体験の意味は何か。

その体験を通して、記憶を浄化する、あるいは消去することです。記憶が浄化、消去されることによつて、我々は一つ一つ過去の記憶から解放されていく。そのとき解放されるのは自分だけでなく、自分と同じ記憶を共有するすべての人たちも解放される。

これは気の遠くなるやうな長い作業です。ヒューレン博士は、それが自分の今生の仕事だと思ひ定めてゐたやうに見えます。

先駆者たちは一人一人この世から消えていきますが、そのシステムは徐々に広がり、我々の意識の中に浸透してきてゐる。さういふ感じを受けます。

原理講義の中にも、時代の変化が見られます。

例へば、我々が何かに悩んだり、苦痛を感じてゐるとき、
「（それは）私が蕩減すべき『私の蕩減内容』を『私が感じてゐる』状態だ」
と説明します。

どういふことか。講義の中で、かういふ例を挙げてゐます。

夫のパチンコ中毒がどうしても直らない。家計も逼迫するほどで、妻の悩みは深い。

そのとき、従来であれば、中毒は夫の問題だと考へます。そこで例へば、夫の家系を紐解いて賭け事狂ひはゐなかつたかと調べてみる。うまい具合に該当する先祖が見つかれば、「あゝ、この人が原因だ」と思ふ。

「蕩減問題の原因を作つたのは特定の先祖であり、それを清算するべきはその子孫である夫だ」
と考へます。

この場合、蕩減問題は悩みの張本人である妻の「外側」にある。だから妻はその問題を自分とは直接関係のない問題として客観的な手法で解決しようとする。

それに対して上の講義では、
「蕩減問題は妻の外側ではなく、まさしく妻の内面にある」
と見るのです。

なぜ妻の内面にあるのかと言へば、夫の中毒で苦痛を受けてゐるのはまさに妻自身であるからです。さういふ苦痛を受けるべき原因は妻自身の中にあるのです。

これをホ・オポノポノ流に言へば、
「妻は今まさに、自分の潜在意識の中の記憶の再生を体験してゐる」
といふことになる。

だからこの問題を解決すべき主体は夫でも、夫の先祖でもなく、妻自身といふことになるのです。

これは、夫の中毒の原因が妻にあるといふ意味ではありません。夫の中毒によつて「苦しむ原因」が妻にある、もう少し厳密に言へば、妻の潜在意識の中の記憶にあるといふことです。

蕩減条件はこゝにおいてこそ立てられねばならない。苦痛を感じた人の外側ではなく、その内側において常に立てられるものだといふことになるのです。

かういふ見立てにおいては、特定の悪者はゐません。夫が悪いのでもなく、その先祖が悪いのでもなく、妻が悪いのでもない。蕩減条件は常に苦痛を感じた人本人が自身の内面で立て始めるべきものだといふことを言つてゐます。

もし、蕩減問題の原因を自分の外側に求めるなら、その原因者を悪者に仕立て上げてしまふことになる。妻を苦しめてゐる夫が悪い、その夫の原因を作つた先祖が悪いといふことになる。さういふ見方で本当に蕩減ができるだらうかといふ話です。

妻が自分の内面（の記憶）に原因を求めるなら、どのやうに蕩減条件を立てればいゝのでせうか。

その方法について、原理では「甘受する」と言ひ、ホ・オポノポノでは「記憶を浄化する」と言ふ。この2つはほぼ同じことを言つてゐます。どちらもまづ、「問題の責任者は自分である」といふ立場です。

責任を自分が引き受けることによつて、自分の外側のどこにも悪者はゐなくなる。加害者がゐないのです。加害者がゐなくなれば、自分も被害者ではなく、事態の責任者になります。

講義でも
「責任者になつてこそ、そこから蕩減復帰の摂理が始まる」
と言ふ。本当にさうだらうと思ふ。


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