女性が抱へる集団的ペインボディ
前回の記事「ペインボディには好物がある」の続きです。
ペインボディはほとんどの人が持つてゐるものですが、その中でも集団的ペインボディといふものがあると、トールは言ひます。例へば、民族的ペインボディ。あるいは人種的ペインボディ。
いづれも深刻なものではありますが、最も大きな集団的ペインボディがある。人類の半分である女性のほとんどが集団的に分かち持つてゐるペインボディです。
女性であるがゆゑに体験してきた苦痛がある。その苦痛の記憶が折にふれて女性の意識に立ちのぼつてくるのです。
それはどんな苦痛か。あるいは、なぜ女性だけがその苦痛を味はつたのか。
トールは女性の特徴と運命を次のやうに見立てます。
女性は男性よりも理性に自分を同一化する度合いが低い。そのため、女性は男性に比べて直観的能力の発生源である生体の知性とよく触れ合つてゐる。また、女性は男性ほど自我の強固な殻に包まれてゐないので、よりオープンで、他の生命の形に敏感で、自然界とうまく調和してゐる。
そのやうな優れた女性性は、例へば、シュメール、エジプト、ケルトなどの古代文明ではむしろ尊重されてゐた。日本でも近代までは女性の内的地位は決して低くはなかつたと見られます。
ところがその女性性が、少なくとも過去2千年間は男性によつて抑圧されてきた。極端な例で言へば、ローマカトリックの「異端審問」によつて、300年間に300万人から500万人の女性が「魔女」の烙印を押されて拷問され、殺害されたと推算される。
キリスト教だけではない。他の宗教でも文明でも、多かれ少なかれ女性的側面は貶められた。女性の地位は子を産む道具、あるいは男性の所有物と見做されさへしたのです。
このやうに抑圧された女性性を、多くの女性は感情的な痛みとして抱へており、彼女たちのペインボディの一部となつてゐる。女性たちは当然この苦痛から解放されたいと願ふ。
この根源的な願ひが女性解放運動として前世紀後半から現象化し、今日ではジェンダーフリーといふ表題を掲げるまでになつてゐる。そのやうにも見ることができるでせう。
女性が抱へるペインボディについては、表現こそ違へ、次のやうな見立てもあり、私自身も以前から気にかかつてゐます。
世界の経済危機は、実は女性が愛されている、大切に思われているということを感じていないことが、その原因なのです。女性の男性に対する恨みや憎しみの大きな『塔』が世界中に立ち始めているのが原因で、世界経済がおかしくなっているのです。 (『豊かに成功するホ・オポノポノ』イハレアカラ・ヒューレン著) |
「女性の男性に対する恨みや憎しみの大きな『塔』」とはいささか比喩的な表現ですが、決して杞憂ではないやうな気がするのです。
この「塔」は過去2千年間に少しづつ高くなつてきたもので、今や根底から崩すべきときを迎へてゐるのではないか。今は女性に対する男性の抑圧が緩み出しており、「一気に崩してくれ」といふ声が女性の側から噴出してゐるといふのが現状のやうに見えます。
その声の一例を挙げてみます。これはさほど政治的でもラディカルでもないものです。
最近、『#駄言辞典』といふ本が話題になつてゐます。聞き慣れない言葉、「駄言」とは何か。
「女はビジネスに向かない」のやうな思ひ込みによる発言。特に性別によるものが多い。相手の能力や個性を考へないステレオタイプな発言だが、言つた当人には悪気がないことも多い。 |
出版編集部によると、集まつた駄言体験の大半は女性からのものださうです。その実例をいくつか挙げると。
「内助の功」 女性が男性を支へる? 男性が女性を支へてもいゝのでは。 「家事手伝ふよ」 男性は自分が家事のサブだと無意識に思つてゐる。それが問題。 「君が男だつたら(もつと出世できただらうに)ねぇ」 誰がそんな構造を作つたと思つてるんだ? 「女性が活躍する社会」 性別で分ける必要があるのか? 「新郎新婦」 なぜ新郎が先なのか? なぜこれがデフォルトになつてゐるのか? |
男女の会話に駄言の話題が出れば、間違ひなく男性が女性に押されるでせうね。女性が「これはどうよ?」と問ひ詰めれば、男性はたじたじとなつて、「すまない。そんなこと思ひもしなかつた」と謝罪するか、反対に開き直るしかない。
この本の書名には「早く絶版になってほしい」と附言されてゐます。しかしこゝにある問題は、結構深いと思ふ。言葉に気をつけるとか、意識を変へるとか、それだけでは容易に解決しない。女性のペインボディだけでなく、男性のペインボディも一緒に癒さないと、この問題は消えないのではなからうか。

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