fc2ブログ
まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

おばあちやんの「だるまさんが転んだ」

2021/11/09
介護三昧 0
だるまさんが転んだ

私の誕生日を翌日に控へた去る5日、おばあちゃんはいつものやうにデイサービスに行つて入浴などをして、いつものやうに帰つてきた。

帰るとすぐベッドに入るのですが、しばらく見てゐると、様子が何となくいつもと違ふ。いつもなら大体スムーズに夕食まで仮眠するのに、この日はなかなか寝ない。そしてやたらと動く。

目の前の虚空に何かあるかのやうに手を伸ばしては、掴んだ(と思へる)ものを口に入れるやうな仕草をする。そして誰かに向かつて喋つたり、どこかに行かうとしたりする。

日が落ちて、夕食を準備する。ところが食べさせようとしても、心こゝにあらずで、しきりに何かしゃべり続ける。スプーンで口に運んでも、一心に喋るので食べ物を吹き出す始末。

かういふ様子を見てゐると、ふいに不安に襲はれる。意識がこの世からあの世へ移りつゝあるのではないか。今年いつぱい持つだらうか。

不安のまゝ、一夜を明かす。予想外のことは翌日、私の誕生日に起きたのです。

心配しながらも買ひ物が必要なので、1時間ほど出かける。急いで帰つてみると、ベッドにおばあちゃんの姿がない。これまでもさういふことは時々あり、大抵は床に降りてひつくり返つてゐる。

ところがこの日は、部屋のどこにも姿がないのです。そして部屋の中は妙に散らかりもない。

廊下にもゐない。一体何が起こつたのか。不安のボルテージが一気に上がる。

見取り図2  

耳を澄ますと、どこからカタコトといふ音がかかすかに聞こえる。向かひの和室の襖を開けてみると、こゝにはゐない。

廊下を5mくらゐ進んで、まさかと思ひながら、トイレのドアを開けてみる。ゐない。

隣りは風呂場。考へられるのはもうこゝしかない。ドアを開けてみる。洗ひ場におばあちやんがひつくり返つてゐる。冷えびえとしてゐるのに、オムツを半分脱いでゐる。

慌てて抱き抱へ、ベッドまで連れ戻す。布団をかけ、湯たんぽを温める。

「温かい~」
と、おばあちやんは九死に一生を得たやうな声を出す。

それにしても不思議だ。ベッドから風呂場までは、少なくとも7mはある。普段の体力から考へれば、この距離を移動することはあり得ない。

歩いていくことは不可能。這つて行つたとしても、この距離。どれほどの時間をかけて移動したのだらう。

目は見えてゐない。どうやつて風呂場のドアを開け、洗い場まで降りたのだらう。オムツを半分脱いでゐたのは、そこで用を足したいと思つたのかも知れない。

だるまさんが転んだ」といふ子どもの遊びがあります。今回の出来事は、約1時間に及ぶやゝ長めのだるまさんです。見てゐない間に、どうやつて7mを移動したのか。キツネにつままれたやうな思ひです。

それにしても、おばあちやんの様子はむしろ落ち着いてきた。ご飯はしつかり咀嚼し、「美味しい」と反応する。意識は取り敢えずこの世のほうに戻つてきたやうに見える。

知り合ひの看護師に聞くと、最期を迎へる直前、一時的にエネルギーが高まることがよくあるやうです。よく喋り、よく動く。さうしながら、波のやうに上がり下がりがあつて、だんだんと波は下がつていく。

しかし今のところは、来年の正月を迎へられさうです。

にほんブログ村 哲学・思想ブログへ
にほんブログ村

異世界無双
関連記事
スポンサーサイト



Comments 0

There are no comments yet.