英語脳で解く「This is it」
松本道弘といふ人の話は、一度聞くだけで面白く、惹きつけられる。しかし、二度三度と聞き直してもなかなか理解できない。
何が理解しにくいかと言ふと、話の内容もそうですが、英語の学び方、またそのための英語思考それ自体が理解しにくいのです。私も若い頃に数年間、米国に留学したものの、英語思考といふものは十分身につかないまゝだつたのだと思ふ。
松本さんによると、英語学習には左脳型と右脳型とがあるが、最も効果的なのはその真ん中、「腹で学ぶ方法」だといふ。「肚」と書いたほうがいゝのかも知れない。
松本さんが挙げるいくつかの例を見てみませう。
He hasn't gut it.
これを「あいつは肚がない」と訳す。
あるいは、
He just can't get it.
と言へば、「あいつは空気が読めない」といふ意味に近い。
どうしてこれが「空気が読めない」となるのか。こゝで鍵となるのは「it」です。これを松本さんは「真実」だと言ふ。「真実が掴めない」から「空気が読めない」となるのです。
これを踏まえて、
She's got it.
と言へば、「彼女は性的魅力がある」となるのに、
He's got it.
と言へば、「彼には肚(器)がある」となる。
女性の真実は「性的魅力」であり、男性の真実は「肚」である。今どき、ジェンダーの観点ではちよつと問題かも知れないが、まあ歴史的にはこんなふうに慣用されてきたわけでせう。
もう少し例を挙げると、マイケルジャクソンのヒット曲に
「This is it」
がある。このタイトルを聞くと、英語脳はどんなイメージを抱くのか。
松本さんによれば、2通りあるといふ。一つは「これがすべてだ(ありったけ)」、もう一つは「これが最後だ(もう二度と会はないよ)」。
かういふのは、左脳偏重で英語を学んだ私にはとても分かりにくい。教科書では「it」は「それ」とか、「天気を言ふときに使ふ」などと習つた。だからビートルズの「Let it be」なども、私は長い間意味がよく分からなかつたのです。
見えないけど、気になる重要なもの。それが「it」なのです。
それで、かういふ使ひ方もされる。
『A child called "IT"』(『Itと呼ばれた子ども』)
これはDave Plezerの小説。かういふ子はとても可哀さうですね。そこにゐて見えてゐるのに、それでもあたかも「見えてゐないかのやうに」呼ばれる。
あるいは、
スティーブン・キングの小説『IT』
これは大ヒットしたホラー映画の原作です。サブタイトルに「”それ”が見えたら、終はり」とある。小さな村を舞台に、7人の子どもたちに迫るピエロの恐怖を描いてゐます。
それで松本さんは、
「itは真実だ。肚で学ばないとこれが掴めない」
と言ふ。
天気を言ふときに使ふitに特別な意味はない。学校ではそんなふうに習つたのですが、意味がないどころではない。最もありふれて見える2文字の単語にとてつもない「真実」が潜んでゐるのです。

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