僕はこの中学に入りたい
日本テレビで新しくスタートしたドラマ「二月の勝者」を面白く観てゐます。
舞台は「桜花ゼミナール」といふ中学受験塾。吉祥寺校の校長として赴任したのがスーパー塾講師の異名を持つ主人公の黒木蔵人です。
この塾は生徒たちを偏差値で3つのクラスに振り分ける。
Ω(オメガ)クラスは偏差値が57以上のエリートクラス。Aクラスは49から56のミドルクラス。そしてRクラスは48以下(これを黒木は「お客さん」と呼ぶ)。
さうした上で黒木は
「全員を来春志望校に合格させる」
と宣言する。
一見して彼は非常にドライです。Ωクラスには高い目標に向けてガンガン勉強させる一方、Rクラスは「勉強を楽しませておけばいゝ。彼らはお客さんです」と言つて憚らない。
しかし第2話で、こんな展開があつた。
Rクラスの担当は新入講師の佐倉麻衣。真面目な教師タイプで、点数を取れない生徒にも細かく目を配り、少しでも点数をアップさせてやらうとする。
彼女のクラスに匠(たくみ)といふ男の子がゐる。授業中も窓の外を眺めたりして集中力がない。テストの点数も冴えない。彼のことを心配して、佐倉は授業が終はつた後にマンツーマンで苦手な箇所を補強してやらうとする。
そのときいろいろ話すうちに、匠がしばしば窓の外を眺めるのは、ビルのすぐ下を走る電車に関心があるからだと分かる。電車の車種から細かなダイヤまで、彼は実によく記憶してゐるのです。
その話を聞いて、佐倉は「そんな趣味があるんだな」と思ふだけだつたが、佐倉から匠のことを伝へ聞いた黒木は、瞬時にピンとくる。即座に本屋へ飛んで行き、鉄道マニアの雑誌を購入し、匠の父母の面会を設定する。
父母は「匠にはレベルの高い中学受験は無理だと思ふ」と言つて、退塾を申し出る。ところが黒木は、匠にスマホの動画を見せる。人気のある鉄道の模型が颯爽と走つてゐる。
「これは〇〇中学の鉄研の生徒が作成したんだ」
と教へてやり、その中学のカタログを見せてやると、匠の目はカタログに釘付けになる。
そして、
「お母さんお父さん、僕はこの中学に入りたい」
と言ふ。
さらに黒木は、匠の成績資料を父母に示して言ふ。
「匠君はかなりの分野で偏差値が40台ですが、地理など特定の分野では70を超える。鉄道好きな子は地理に強いんです。彼は記憶力もいゝし、勉強すれば伸びます」
横に座つてゐた佐倉は、最後まで一言も発せず、黒木の対応をぢつと見てゐた。
後日、塾の同僚と食事をしながら、黒木の対応についてこんなふうに感想を吐露するのです。
「私は匠君の苦手分野を何とか補強して伸ばしてやらうと思つてゐたんです。でも黒木校長は彼の得意分野を見つけた。私にはその発想がなかつたの」
黒木は校長としても経営者としても、生徒を1人でも失ひたくなかつたのかも知れない。(実際、Rクラスはお客さんだと公言してゐる)しかしたといさうだとしても、彼には人の本質を見抜く眼力がある。そしてそれを見抜いたなら、即座にそれを本人にも父母にも具体的に示して次の行動に促す知恵も持ち合はせてゐる。
いかにもドラマらしい流れではあるが、我々はお互ひの何を見ているのか、また何を見るべきかを考へさせられます。
佐倉は先生としては悪くない。授業について来れない生徒一人一人に目を配つてゐる。しかし残念なことは、生徒の「できないところ、劣つてゐるところ」を見てゐるのです。
その生徒を劣等生、あるいは弱者と見て、その弱点を補強してやらうと頑張る。同情心のある優しい先生のやうに見えながら、本当にその生徒の長い将来に対して助けになつてゐるのか。
勉強がよくできる子は、勉強自体が楽しくて勉強する。しかし匠は鉄道を極めることが楽しいのに、楽しくない勉強で助けようとする。同情しながら、何だか的を外してゐる。
親として我が子を見るときにも、似たやうなことがいくらでもあり得るなと思ふ。

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