2つの円が重なり合ふ
『聖なる予言』(ジェームズ・レッドフィールド)は1994年に全米ベストセラーの第1位になつたらしい。確かに面白い小説です。
著者のレッドフィールドは、所謂プロの作家ではない。本業はセラピストで、本書は最初自費出版だつた。それが口コミで広がり、大手出版社が目をつけて版権を買ひ取つたといふ。いかにもタイトルに相応しい経緯です。
ペルーで、ある「写本」が発見される。それには古代の予言として9つの知恵が記されてゐるらしい。主人公がその知恵を求めてペルーに向かひ、知恵に一つづつ出会つて行くといふストーリーです。
知恵はただ単なる理論理屈ではない。それに出会ふには、必ず出会ふ人自身の体験とセットになる必要がある。つまり、実体験なしには知恵の扉が開かないといふ筋立てになつてゐるのです。
▶自分の中の異性を統合する
こゝでは第8の知恵について紹介してみようと思ひます。
一言で言ふと、
「自分の中の異性を統合する」
といふ知恵です。
写本の知恵はすべて、人間関係を「エネルギー」のやり取りと捉へる。第8の知恵もその観点です。
男女が恋に落ちると、無意識のうちにエネルギーを与へ合ふやうになる。そのエネルギーが強くなればなるほど、2人の気持ちは高まる。ところが、このエネルギーが恋の相手から得られるものだと期待すると、宇宙のエネルギーから切り離されてしまふといふのです。
切り離されてしまふと、ますます、エネルギーを相手から得ようとする。たださうなると、エネルギーが十分にないやうに感じ始め、お互ひにエネルギーを与へ合ふのを止めてしまふ。そして、自分流のやり方で相手のエネルギーを奪ひ始めるのです。そして、どちらが優位に立つかといふ闘争関係になつてしまふ。
これが、多くの男女関係が最初こそ歓喜を生み出すのに、時を経て次第に冷めていき、遂には破局を迎へるやうになる原因だと、第8の知恵は示唆する。
男女関係において、何が本質的な問題なのか。「自分の中の異性を統合できてゐないことだ」と言ふのです。
我々は誰でも、男性で生まれるか女性で生まれるかの、どちらかです。しかし男性には女性の、女性には男性のエネルギーが内包されてゐる。
なぜか。私に馴染みの言ひ方をすれば、我々の源である神は男性と女性といふ二性を兼ね備へた二性性相の方であるからです。
我々がこの世に生まれて正常に成長すれば、神に似て、男性も女性も自分の中の異性を統合できる。ところが多くの場合、父親母親との関係が理想的に作れないために、異性が統合できないまゝ大人になる。
すると、男性は自分の中に女性のエネルギーを充分に感じられないために、自分の外側にそれを求めるやうになる。これが異性に惹かれることのエネルギー的な理由です。
▶2つの円が重なり合ふ
『原理講論』の「創造原理」には、
「男性には女性性相が、女性には男性性相が各々潜在している」
と指摘してゐます。
これは第8の知恵と一致してゐる。ところが、創造原理を講義するときは、
「男性は円の右半分、女性は円の左半分。この2人が愛で一つになることによつて初めて完全な円になる」
といふやうに話してきたものです。
しかし第8の知恵に沿つて言ひ直すと、次のやうになる。
「男性も一つの円として完成し、女性ももう一つの円として完成する。男女が愛し合ふとは、この2つの円が重なり合ふことである」
「個性完成」といふ概念は、男女それぞれが一つの円として完成するイメージです。自分の中の異性を統合する、といふことです。
自分の中の異性を統合するには、実体的な異性と関係する前に、二性性相の根源である方と繋がる必要がある。その方との繋がりが不十分なまゝで実体的な異性と関係を結ぶと、根源的なエネルギーが遮られてしまふ。するとそのやうな異性関係は、最初に見たやうに、破綻してしまふ可能性が高まるのです。
前の記事「愛情深い、自己中心的な私」で、
「人間関係の目的は、相手に満たしてもらうことではなく、『完全な自分』を分かち合ふことだ」
といふ神の言葉を引用しました。
これも結局、同じことを言つてゐます。半円同士が自分の足りない部分を相手によつて満たすのではなく、完全な円同士がお互ひを分かち合ふ(重ね合ふ)。これこそ、我々が人間関係を結ぶ目的だといふことです。
自分が完全な円になること。これは容易ではない。しかし我々が半円、あるいは不完全な円に留まる限り、我々が結ぶ人間関係にはさまざまな軋轢が生じ、困難が伴ふ。自分の中に無限のエネルギーを感じられないので、相手のエネルギーを奪ふやうな動きにどうしてもなつてしまふのです。

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