「気まま」な9匹の猫
千葉の森の中に猫9匹が暮らすバラガーデンのカフェがあるらしい。NHKの「もふもふモフモフ」を見てゐて知りました。
初老の夫婦が老後の楽しみにと思つて作り始めたガーデンが、広くて奇麗になつていくと、「ここは何だらう?」と思つて迷ひ込む人がポツポツと現れるやうになつた。それだつたらと夫婦が相談して、そのガーデンを開放し、訪ねて来る人がゆつくり過ごせるやうにカフェを開いた。
9匹の猫はみんな元は迷ひ猫。ガリガリに痩せてやつて来て、そのままガーデンに居着いた。
毛色も模様もみなまちまち。喧嘩つ早い奴は、ボスになる。ハクビシンが来てもひるまない。取つ組み合つて、尻をかまれ負傷した。
毎日決まつてガーデンの入り口に居場所を決め、来客を迎へ、帰り客を送る猫がゐる。「門番」と呼ばれる。
いつの間にか、どこか他にもつと良い場所を見つけたのか、姿を消した猫もゐる。ときどき、月に1回くらゐ、ふらりを戻つてくることがある。
今一番の新参猫は、残り8匹となかなか馴染まない。しかし女主人によると、新参者はみんなそんなふうに遇される。黙つて見てゐれば、数ヶ月すればいつの間にか受け入れられ、馴染んでいくらしい。
「猫たちは、みな気ままに暮らしてゐる」
とナレーションは言ふ。
確かに、さうも見える。
晴れた春の日には、小川沿ひに歩きながら、水を飲む。咲き誇る花の群れの中に、ぢつとしやがんで日の移ろひを見てゐる。
暑い夏の日には、小屋のテーブルの上に体を伸ばして寝そべつて過ごす。外のベンチの下に隠れて涼を取るものもゐる。
四季折々の花を愛で、カフェを楽しむ客たちは、近くに猫を見ると、近寄つて頭をなでる。人懐こい猫は手足を広げてお腹を出す。お腹をなでると、猫はうつとりする。
ガーデンカフェは数千種類の花に満ちてゐる。しかしそのカフェの魅力は明らかに、花だけではない。9匹の猫たちが欠かせぬ魅力の源になってゐる。
かと言つて、その猫たちが何か特別の芸をするのではない。ナレーションが言ふ通り、ただ「気まま」に生きてゐるだけです。
客がなでてくれたつて、それで特別におもねるでもない。来れば拒まず、去つても追はない。しかしさういふ態度が、なぜか見てゐても非常に心地よい。
猫たちにとつて「気まま」とはどういふことだらうと思ふ。
朝からその日のスケジュール立てて仕事の準備をし、決められた時間は働いて、わづかに残つた夕方からの時間を自分のために使ふ。さういふ時間に縛られた人間から見れば、猫の暮らしぶりは「気まま」に見える。
しかし猫の「気まま」は、彼らの「気まま」ではなく、人間の目に見える「気まま」のやうな気がする。猫には別に自分が「気まま」に生きてゐる自覚はあるまい。
番組はガーデンカフェで暮らす9匹の猫の1年を淡々と描いた。無自覚な「気まま」は、見てゐるだけでとても心が安らぐ。
「無自覚な気まま」が、人間たる自分には意外と簡単ではないのです。

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