「大坂なおみ現象」はどこで起きてゐるか
「大坂なおみ現象」がかなりの広がりを見せてゐます。
5月末からフランスで開かれてゐた「全仏オープン」に出場した大坂なおみ選手は1回戦を快勝した。ところがその後の記者会見を拒否。続いて、2回戦以後を棄権するとSNSで表明した。
これに対して大会の主催者側は、規約に反する行為だとして1万5千ドルの罰金を科した。その上で、「今後ともかういふ違反を続けるなら、大会追放やより多額の罰金、将来の四大大会への出場停止処分もあり得る」と警告した。
すると大坂選手はさらに自身のSNSで
「怒りは理解の欠如。変化は人々を不快にさせる」
と発信。
そして
「2018年以来、精神的な抑鬱状態が続き、苦しんできた」
とも告白した。
なぜ大坂選手は記者会見を拒否したか。記者会見は全世界に流される。その会見で何を聞かれ、どう答へるか。世界中の人が見ると思へば、それは相当な精神的プレッシャーになる。
大坂選手自身は、元々外向的なタイプではなく、パブリック・スピーカーではないといふ自己認識がある。そして過去の会見でも思ひがけないことを聞かれたり、無茶振りの質問を受けたこともある。
「人々(直接的にはインタビューする記者たち)がスポーツ選手のメンタルヘルスに関心を持っていないとよく感じる。私のことを疑う人たちに自分を見せるつもりはない。試合に負けた後、プレスルームで選手たちが精神的に崩壊している映像をたくさん見てきた」
とSNSで発信してゐる。
このやうな大坂選手の一連の発信に対して、多くの人々のさまざまな反応がメディアにもSNSにも溢れた。
大会の主催者側は、選手のメンタルヘルスに細心の配慮をすべきであることを認めながらも、「スポークスパーソン」としての役割はスター選手の義務であるといふ考へも否定しない。
その他に、同じアスリートたちからも同情論や共感とともに、さまざまなコメントが寄せられる。SNS上では、賛意両論がそれこそ空の星の如くアップされる。
私自身はテニスにも大坂選手にも格別の関心があつたわけではない。その私がこの出来事に特別の関心を抱いたのには、きつかけがある。脳科学者の茂木健一郎さんがアップした短い動画を見たのです。
その中で茂木さんが指摘した唯一の点は、
「その人が嫌がることを強要するのは、絶対によくないのです」
といふことだつた。
その一言がなぜか、非常に心に残つたのです。そこから情報を集め始めた。
情報を集めながら考へていく内に、大坂選手の行動を私がどう評価するかといふこととは別に、気づいたことがあるのです。
「大坂なおみ現象」は私の外ではなく、私の内で起こつてゐる。
「大坂なおみ現象」は、ふつうには私の外側で起り、進行してゐる現象だと思はれるでせう。その主人公は大坂なおみといふスター選手であり、それに相対して大会の主催者たちがゐる。その周りに彼女に近いアスリートたちがゐて、そのさらに周辺にこの現象に関心を持つ第三者が無数に群れてゐる。そんなふうに見える。
しかし、この現象に関はる一人一人が
「この現象は、私にとつて一体何だらう?」
と考へるとき、それは「私の内」でしか起こつてゐないことに気づくのではありませんか。
冒頭に「大坂なおみ現象」が広がりを見せてゐると書きました。しかし、関心のない人にとつてこの現象は広がりどころか、そもそも「存在しない」。それが「私の内で起こつてゐる」ことの証拠です。
世の中にただ一つだけの「大坂なおみ現象」が客観的に起こつてゐるのではない。それに関心を持ち、それを見聞きしたすべての人の中でのみ、個別の「大坂なおみ現象」が起きてゐるのです。だから、同じ名前で呼んだとしても人の数だけ現象はあり、同時に一つとして同じ現象はない。
これはふつうの見方ではない。こんな見方をすることに、何の意味があるのか。
大坂なおみといふ女性がゐることは確かです。しかし彼女が勇気ある女性なのか、我が儘な女性なのか。ある特性を持つた大坂なおみは私の中にしかゐないのです。
大会主催者は当然の権利を主張したのか。あるいは時代の変化に気づかない頭の固い人々なのか。その主催者たちも私の中にしかいゐない。出来事の当事者たちに対して賛成・反対を唱へるすべての人たちも、私の中にしかゐない。
つまり、この現象に関はるすべての人たちは、私の中にゐる。すべての人たちの姿は、私自身の心(意識)を反映したものだといふことです。
この現象をどのやうに感じるか。その中に登場する人たちをどのやうに評価するか。それが「今の私そのもの」です。私はあたかもこの現象の第三者のやうに、現象を評価して平然としてゐられるやうな立場ではない。
「現象は、私が一体何者であるかを教へる」
これは「私」が関はるすべての現象に当てはまることです。

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