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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

Aさんは「現実の人」なのか

2021/05/18
思索三昧 0
現実の人



前回の記事「虚構世界で悩む人」に続いて、「現実」と「虚構」についてもう少し考へます。

今私の目の前に同僚のAさんがゐるとします。Aさんは悪い人ではないが、何となく私と相性が合はない気がする。

私のほうが数年先輩なので、仕事については私が教へる立場に立つことが多い。飲み込みはよいが、何となく私のやり方に批判的な態度が感じられる。一緒に仕事をすると、私の仕事ぶりが値踏みされてゐるやうで、どうも緊張する。

さて、このAさんは「現実の人」なのか、それとも「虚構の人」なのか。

通常の感覚では、Aさんはもちろん「現実の人」です。いつも一緒に仕事をしてゐるし、会話もする。Aさんは結婚して子どもも2人ゐる。

しかしそのAさんは、私の目には仕事の飲み込みは良いが、私のやり方に対してはいつも批判的に見てゐるやうな気がする。そのAさんは「現実の人」でせうか。

現実のAさんが存在することは疑ひない。しかし私が見てゐるAさんは実は私の頭の中に存在する。そのAさんは「虚構の人」です。

哲学者のカントは
我々の理性はものそのものを知ることはできない
と言ひました。

いろいろな言ひ方はあると思ふが、私もAさんその人(現実のAさん)を知ることはできないと思ふ。

それなら、「現実のAさん」と「虚構のAさん」とはどういふ関係にあるのか。

私の外には「現実の世界」が存在する。その世界の情報を私は主に五感で受信し、脳に送る。集められた情報は脳の中で再構成されて「虚構の世界」を構築する。私が知ることのできるAさんはその「虚構の世界」の中に存在する「虚構のAさん」です。

「現実のAさん」を知覚するのは私の五感です。それに対して「虚構のAさん」を認識するのは私の意識です。

「現実のAさん」が本当はどんな人か、私は知らない。私が分かるのは私の脳が再構成した「虚構のAさん」だけです。

脳がどんな変数を使つて「現実のAさん」を「虚構のAさん」に変換するのか、それを解く知識は私にはない。ただ、これまでに学んだ知識から、潜在意識の中の記憶とか堕落性などといつたものが複雑に作用して、多分に歪んだ「虚構」の像を作るのではないかと想像するだけです。

かなりあやふやな理屈だとは思ふ。しかし「現実」と「虚構」とをこのやうに分けることで、ふつうには見えないものが見えてくるのです。

私に批判的なAさん。相性の合はないAさん。本当にさうだとしても「現実のAさん」を変へることは私にはできない。少しはできたとしても、きわめて難しい。

しかし「虚構のAさん」なら、私が変へることができる。私の脳の中の世界だからです。何らかの方法で変数を変へれば、それは可能ではないかと思へます。

この変数を変へることを、宗教的な用語で例へば、「堕落性を脱ぐための蕩減条件を立てる」などとも言つてきた。これがうまくいけば、私の中で「虚構のAさん」はその様相を変へる可能性があるのです。

Aさんは私に批判的だと思つてゐたが、さうでもない。相性が合はないと思つてゐたが、よく話してみると結構気さくで良い人だ。私の変数さへ変へれば、Aさんも愛すべき人だし、この世界も善意に満ちた世界だ。

これがどうも、イエス様の言はれた
「天国は汝の内にある」
といふことなのではないか。

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