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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

保守主義は後手に廻る

2021/01/23
世の中を看る 0
保守主義 

こうして革新派の方が先にイデオロギーを必要とし、改革主義が発生する。保守派は眼前に改革主義の火の手があがるのを見て始めて自分が保守派であることに気づく。「敵」に攻撃されて始めて自分の「敵」の存在を確認する。
したがつて、保守主義はイデオロギーとして最初から遅れをとつてゐる。改革主義にたいしてつねに後手を引くやうに宿命づけられてゐる。それは本来、消極的、反動的であるべきものであつて、積極的にその役廻りをすべきではない。
(『私の保守主義観』福田恆存)


去る1月20日、いよいよ米国に新しい政権が発足した。昨年11月3日の投票以来、投開票に関するさまざまな不正の疑惑が提出され、トランプ前大統領は最後まで敗北を認めなかつた。

トランプ陣営の法律家グループはいくつかの州で訴訟を起こし、最高裁にまで訴状を提出した。しかしそのほとんどで敗訴し、最高裁では訴え自体が却下された。

票数の改竄が手作業とコンピューターの両方でかなり大掛かりに行はれたといふ情報も相当数出た。しかしそのほとんどは大手マスコミによつて黙殺され、根拠のない陰謀論のレッテルも張られたりした。

それでも私なりには1月20日までに何らかの逆転劇が起こり得ると期待する思ひがあつたのです。大統領には最終的に軍事カードもあつたのに、トランプ氏は結局それも行使しなかつた。

トランプ対反トランプの対立構図は、単純に保守と革新として描くことはできないでせう。しかしその構図に沿つて考へてみても、真相の一部は見えてくるやうな気がします。

最初に動き出すのはつねに、現状に満足できない者たちです。現状を改革しなければ自分たちの願望が満たされない。それで改革主義の火の手を上げる。

改革主義者の特徴は、明確なイデオロギーを持つてゐることです。改革は少数では難しい。数を頼まなければならないが、そのためには多くの人を糾合できる共通の考へ方、言語化された方向性やゴールが必要になる。それがイデオロギーです。

その代表例が、共産主義と言ふイデオロギーによつて団結した改革主義者たちです。共産主義には独自の歴史論もあれば経済理論もあり、したがつて明確なゴールも設定されてゐます。

それに対して、保守主義者にとつて特別なイデオロギーは必要ない。何を保守してゐるかと言へば、今の自分たちの生活を保守してゐる。長い伝統を通して形成されてきた馴染みの環境の中で実現する安定した生活。

その生活には親密な家族がゐる。それなりに安定した仕事と収入がある。ある程度見通せる将来の希望がある。それを守りたい。少しづつは今の生活を改善していきたいが、ひつくり返すやうな改革は望まないのです。

だから、保守主義者は眼前に改革主義者が活動を始めて、そこでやつと
「あゝ、自分は保守主義者だつたんだなあ」
と気づく。後手に廻るのが保守主義者の運命なのです。

トランプ氏も後手に廻つたのだと思ふ。彼の政治にはイデオロギーがないのです。「America First」「Make America Great Again」はイデオロギーではなく、保守主義者の願ひなのです。そのほうがイデオロギーなどといふものより、よほどましだと思ふ。

このスローガンは悪くなかつたが、20年も30年も前から動き出してゐた反対勢力が積み上げてきた周到な基盤を、わづか4年で切り崩すことはやはり難しかつた。それが今回の暫定的な結論だと思ふ。しかし、保守主義はおとなしくて動きが鈍いけれど、決して死にはしないのです。

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