恋するAIロボット
コンピュータとかAIなどは科学と論理の世界で、それなら論理主体の男性脳が中心となつて力を発揮すればいいやうに思へる。しかし論理一本ではない女性脳は、男性脳が思ひもよらない発想をもたらすかも知れない。
実際この分野にどれくらゐの女性が活躍してゐるのか知らないが、目立つところでは『AI vs.教科書が読めない子どもたち』の新井紀子さん、「トリセツ」シリーズが好評の黒川伊保子さんなどかな。
この2人、特に黒川さんの著書を読んで強く感じるのは、母性、新しい生命を生み出す性の持つ発想の面白みです。実体験として自分の体の中に別の生命体を一定期間宿して生み出すといふことは、男には逆立ちしてもできない。この体験、あるいはたとへ体験をしてゐなくても、体験し得ることそのものは、この分野の認識に大きな影響を与へると思ふ。
例へば、黒川さんの『恋するコンピュータ』。その中で黒川さんは、我々人間がコンピュータと関はることで、どうしたら幸福になれるかと考へる。そこで男性脳なら、より高速に、より高機能にと考へるところでせう。
しかし黒川さんは、AI登載ロボットが呼吸するやうにするにはどうしたらいいかと考へる。あるいは不快や不安を感じるコンピュータ。
かういふ発想は、生まれた赤ん坊がどんなふうに新しい知識を身につけて行くかを見る中で出てくる。母親としての黒川さんは、自分が息子を生んで育てた体験から、ヒトの頭脳の驚異をいくつも目撃してゐるのです。
例へば、息子が5歳の時。
2人で映画『スターウォーズ〈帝国の逆襲〉』を観てゐた。そのとき黒川さんが息子に尋ねた。
「ゆうさんは、ヨーダが好きなの?」
すると息子は、
「ヨーダを見てゐると、不安になるんだよ」
と答へる。
「不安?」
「さう、たとへば、ママが死んだらどうなるんだらう、とかいふ不安さ」
「あなた、そんな不安を感じるの?」
「大丈夫だよ。毎日よくある不安のひとつさ」
「不安」といふ気持ちは、人間独特のものでせう。これは人間の脳が過去から未来までのかなり長い期間の記憶を保存できることに由来すると考へられます。
「過去にこんな痛い体験があつた。今後また同じやうなことがないとは言へない」
「自分の状況は長い間変わらないが、このままで将来も大丈夫だらうか」
そんなふうに思ふところに、不安が生じる。
5歳にしてすでにさういふ脳の機能が働いてゐるといふことです。しかも「不安」といふ言葉にお母さんが心配してゐる様子を察知すると、「大丈夫だよ。毎日よくある不安のひとつさ」と、巧みに親の心配を和らげようとする。実に高度な脳の働きです。
AIロボットが人間そつくりになる必要はない。ロボットにはロボットの良さがあるでせうから。しかし、どんな良いロボットが考案できるかにおいては、愛情を持つて子どもの成長を見つめるお母さんの目が、今後貢献する可能性が相当あるやうな気がする。

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