笑ふお金、泣くお金
『happy money』(本田健)は、著者のかういふ体験談から始まります。
あるパーティーの席で、知り合つたばかりの女性が、唐突に「あなたの財布を見せていただけませんか」と頼んできた。本田さんはベストセラー作家で有名人ですから、財布を見せてほしいと頼まれることはたまにあつたさうです。
持ち逃げされる気遣ひはなささうなので、財布を女性に渡す。すると女性は財布の開いて、高額紙幣を全部抜き出したのです。
「これは大丈夫、これは合格。これも合格だわ」
女性は紙幣を1枚づつチェックして、こんなふうにつぶやく。そして紙幣を財布に戻し、財布を本田さんに返して、「すばらしいわ。あなたのお金はどれもいい感じです」と言ふのです。
本田さんは、何が合格なのか、何がすばらしいのか、分からない。それを教へてもらへますかと女性に尋ねると、
「私はね、あなたのお札が笑つてゐるかどうか、チェックしたんですよ」
と答へたのです。
もう少し詳しく説明を聞くと、女性の話は興味深い。
お金は、どのやうに受け取るか、支払ふかで、笑ふこともあれば泣くこともある。愛情や感謝の気持ち、幸せな気分で支払つたお金は「につこり」あるいは「声を立てて」笑つてゐる。本田さんの命名によれば、これが「happy money」ですね。
一方、罪悪感や怒り、悲しみなどを感じながら支払つたお金は泣いてゐる。これが「unhappy money」です。
私も自分の財布からお札を出して眺めて見ましたが、笑つてゐるか泣いてゐるか、判然としない。残念ながら、感性がないやうです。しかし想像してみると、多分、あまり笑つてはゐないだらうな、といふ気がする。心当たりがあります。
どういふ状況で使はれたお金が「unhappy money」になるのか、本田さんのリストアップを参考にしてみませう。
1.好きでもない仕事からの給料
2.仕方なく払う税金
3.渋々支払われたお金
4.苦々しさが残ったまま払う慰謝料
5.盗んだ、奪った、だまし取ったお金
この内、今私の財布にあるのは①と⑤ですね。まあ、⑤はないかな。しかし、嫌々してゐた仕事だつたら、その対価でもらつたお金は①に該当する。
反対に、③のやうに私が渋々支払つたお金は私の財布から出て行つて、今は誰かの財布の中に納まつてゐる。そのお金も可哀さうだが、そのお金と引き換へに私のもとにやつて来た「もの」も可哀さうです。
「これがどうしてこんなに高いんだ」
と内心で思ひながら、私が渋々財布からお金を出して買つてきた「もの」。それはどんな思ひで私のところにやつて来ただらう。
「この人は、私の価値が支払つた金額よりも低いと思つてゐる。私は本来の価値を認めてもらつてゐない」
と思つてゐるでせう。「unhappy thing」です。
渋々支払ふことが多ければ多いほど、私は今「unhappy thing」に囲まれて生活してゐるといふことになる。「unhappy money」と「unhappy thing」に囲まれてゐれば、必然的に「unhappy life」にならざるを得ないでせう。
せめて、お札は喜んで送り出すことにしよう。

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