「東京アラート」で「GO TO」する不可解
脳科学者の茂木健一郎さんが面白い一人掛け合いをアップしてゐます。
運転免許を取るために教習所に通つてゐる人に、新しい交通ルールが伝へられる。
交差点に設置される信号機は赤、黄、青の3色。これまで赤は停止ですから、運転手はブレーキを踏まねばならない。
ところが新しいルールによると、これからは赤と呼ばず、「東京アラート」と名称を変更する。そして信号機がこの色になつてゐるときはブレーキとアクセルを同時に踏みなさい。
「どういふこと?」
不可解なルールに教習生は戸惑ふ。当然です。
こんなおかしな、不合理なルールはあり得ない。このルールに従へば、車はエンコするしかないでせう。
交通ルールなら、これがおかしいといふことは誰でも分かるのに、これと同じことがづつと大きなスケールで起つてゐる。
一方では政府が「GO TO トラベル」を推進する。積極的に旅行に出かけてください。さういふ人には旅費の半分を支援します。これがアクセルです。
ところがもう一方で、日々コロナ感染者は増え続ける。特に東京では過去最高が毎日のやうに更新される。都庁ビルは赤くライトアップされ、マスコミはこぞつて「どうなる? 大丈夫?」と不安を煽る。動けば動くほど感染は広がると危惧されるので、くれぐれも自粛をお願いしたい。東京だけは出るのも入るのも「GO TO」支援しません。
東京の人に尋ねると、「なぜ東京だけ? ひどい差別」と憤慨する人もゐるし、「仕方ない。東京ダントツだもの」と諦める人もゐる。
脳科学者らしい例へ話です。我々は今、意識と無意識との食ひ違ひに「エンコ状態」に陥つてゐます。
意識のはうでは「動け動け」とアクセルを踏まうとしてゐる。ところが無意識のはうでは「動いてはいけない。動くのは怖い」とブレーキを必死に踏んでゐるのです。
意識がなぜアクセルを踏まうとするか。動かないと経済が回らない。短期収入が入り続けないと家賃も払へず、社員に給与も出せない。人が動いてくれなければ、交通業界は困るし、観光業界もあがつたりになる。
為政者たちは国民のさういふ窮状を全体的に救ふ施策を立てねばならないのに、間もなく来さうな選挙も気になる。組織票になりさうな業界に恩を売つておくには、今回は絶好のチャンスだ。
だから「GO TO」のアクセルをできるだけ踏みたい。人が現実のこと、自分のことを考へるときは、意識の働きが主導権を取ります。
ところが困つたことに、人々の無意識は今やとても強い「恐怖」に占められてゐるのです。
「感染者」といふのはまだ症状が出てゐない人で、そのまま無症状で何もなく終はる人は多い。それなのに、連日「今日の新規感染者は○○人、過去最高」と聞き続ければ、「怖い。うつされるのも怖いし、人にうつすのも怖い」と怯えるやうになる。特に今や諸悪の根源のやうに言はれる東京人にしてみれば、県外に旅行などしやうものなら、石でも投げられる恐れがある。怖くて遠出などできるものではないでせう。
これはなかなか深刻な状況です。赤になればブレーキを踏み、青に変はればアクセルだけ踏めばいい。さういふ従来の単純で分かりやすい、意識と無意識が葛藤しない世の中がどのやうに戻つて来るでせうか。

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