夫婦のトリセツ
『妻のトリセツ
とても面白く、目から鱗がだいぶ落ちる。
何回かに分けてその面白さを共有できると思ひますが、まづは全体的な感想をまとめてみます。
『妻トリ』は夫が妻を理解するために、最初に書かれました。
2冊を比べると先に出た『妻トリ』のはうが構成的によくまとまつており、これだけでも十分に男女の脳の違ひが飲み込め、妻のはうが読んでも役に立つ。
「あゝ、私の脳つてこんなふうになつてゐたんだ。だから夫の態度が理解できなかつたんだ」
といふことがとことん腑に落ちる。
後から出てきた『夫トリ』は前作よりはまとまりが緩いものの、参考になるところは多い。
それに、著者本人が結婚生活35年の至福に到達したことによる実感がこもつてゐるところに深い味はひがある。
いづれも、「この人と一生を生きる」と決心した男女のために書かれてゐます。
著者は必ずしも道徳的に「恋多き人生」や「やむなき離婚」を否定してはゐない。
ただ、一旦結婚したなら、いろいろ葛藤があつても、「別れる」か「なんとかしてみる」かの二択しかない。
別れられないのなら、なんとかしてみようというのが、この2冊の本の趣旨なのです。
著者の黒川さんは脳科学の専門家。
タイトルの「トリセツ」は言ふまでもなく「取扱説明書」の意で、一見すると配偶者を軽くモノ扱いしてゐるやうにも思へます。
しかし執筆の本音は極めて真摯なもので、理論と体験が絶妙に融合して、読んでゐて好感を持ちます。
大抵の男女は、自分の配偶者がどんな思考と感情の回路を持つて生きてゐるのかを知らない。
結果、相手の言葉と行動を理解できず、誤解に誤解を重ねて離婚に至るか、あるいは誤解をしたまま生涯を終へる。
これではあまりに詮無い。
そこで、何とか脳の機能・設定の違ひを明らかにして、複雑に見える男女(夫婦)の関係をできるだけ原則的に解きほぐしてみよう。
それでうまくいけば、著者の所謂「35年目の安寧」にたどり着く希望が持てる。
これが「トリセツ」に込められた著者の真意だらうと思ひます。
できるなら離婚しないで、生涯添ひ遂げたい。
一夫一婦といふのが、やはり理想ではないか。
多くの男女の本音は、さうではないかと思ひます。
しかし、脳の機能から見れば、生涯1人の相手を愛し抜くやうにはできてゐない。
と言ふのも、脳は遺伝子のバリエーションをできるだけ多く残したいといふふうに初期設定されてゐるからです。
だから生涯添ひ遂げるといふのは本能ではなく、本能に逆らふことなのです。
その本能に逆らつて1人の相手との愛を深めていくには、本能に優る力が必要になる。
それは何か。
「智慧」と「愛」との2つを挙げてみませう。
「愛」については、何を「愛」と感じるかは男女で違ふやうだし、結婚の初めからあるものでもない。
長い期間をかけ、紆余曲折を経て紡ぎ出されていくものです。
一方の「智慧」。
これも最初からあるものではないが、人生の先輩や賢者から授けてもらう「知識」でもあれば、それが「智慧」の種にはなりさうです。
脳科学の知見はその「知識」の重要な一つだと思はれます。
黒川さんは
「ビジネス社会では女性脳がマイノリティ、家庭では男性脳がマイノリティ」
だと言ふ。
マイノリティと言ふ意味は数の問題ではなく、組織のありやうとそれぞれの脳の認識フレームのありやうが一致してゐるかどうかといふことです。
どんな組織でもマイノリティのはうが分が悪い。
だから会社では女性が、家庭では男性が「居心地」の悪い思ひをする。
そこで、夫婦の問題を扱へば、その主たる舞台は家庭といふことになるので、どうしても夫の分が悪い。
そこではどうしても妻に見えてゐるものが夫には見えない。
妻の気持ちが夫には分からない。
それで妻は自分が軽んじられてゐるやうに感じられて、夫が嫌になつたり、急に怒りが爆発したりする。
ところが、夫の側は今なぜ妻が怒つているのかが分からない。
そんなふうなので、トリセツとしてはまづ夫のための「妻のトリセツ」が必要になるわけです。
ならば、そのトリセツの中身や如何に。
具体的なことは、次回に回しませう。

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