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まるくまーる(旧・元教育部長の講義日記)

君にはどんな理想がありますか

2020/03/31
読書日記 0
小林秀雄
20200331

今回家の中のものを整理するうちに、書棚も随分スリムになつた。
大抵の本は一度読んだら二度とは開かないので、それらは捨てる。
さういふ中で二度三度と読み直し、これからも折に触れて開くだらうと思へる本だけが書棚に残つてゐる。

その中の1冊。
学生との対話』(小林秀雄

片づけ作業に疲れてしばらく休憩する間、お茶を飲みながらこれをパラパラと読み返してゐると、
「さうだつたのか」
と膝を打つことが一再ではない。

例へば、5年前「僕には理想はなかった」といふ記事で取り上げた箇所が目に留まり、5年前には気づかなかつた小林の思ひが迫つてくるのです。

質問してきた学生に小林が
「君には理想がありますか?」
と尋ねる。

学生が
「あります」
と返答したのに対して、小林は
「僕には理想はなかつた」
とあまりに率直に告白する。

どうやら小林はここで
「どんな理想が自分の人生を最後まで変はらず導く理想なのか」
といふことを自分の体験から伝へようとしたのです。

若い学生なら今も昔もそれなりの理想を抱くものでせう。
小林が学生の頃にも周りにはその理想を声高に唱へる者が多かつた。

当時は左翼活動が盛んな時代だつた。
彼らは実現すべき社会の理想を叫んでゐた。

おかしなことに、理想を叫ぶ彼らの多くは金に困つてゐなかつた。
小林が推測するに、彼らの大半は親から十分な生活費を出してもらつてゐたのに違ひない。

「(自分で)稼いでゐる左翼のやつなんか一人もゐなかつた」
と小林は言ふ。

それに対して小林はたいへん貧乏してゐる上に、女性を養ふためもあつて、学生のときから自活してゐた。
小林秀雄の名前で書いた原稿など買つてくれるところはないから、匿名の埋め草原稿ばかり書いてかつかつの生活をしてゐた。

だから左翼学生たちのやうな「理想」なんてあつたものではない。

ところが埋め草原稿を書き続けてゐるうちに、だんだんと自分の中に理想が育つてきたのです。
埋め草原稿を書いてゐるうちに、もう少しうまく書かうと思ふやうになる。

工夫して上達する。
さらに工夫してさらに理想が高まり、当代随一の文芸評論家になつた。

そして最後に、質問した学生に
「そんなふうに僕はやつてきた。だから、君みたいに、どうしたら自分を励ましてくれるだらうなんてことを僕に質問しちや困る。わかつた?」
と答へて締めくくるのです。

小林の目には、左翼学生の叫ぶ「理想」は「空想」に過ぎない。
本当の自分の理想はどこか頭の上の空からやつてくるものではない。
さういふ理想は自分の長い一生に随伴する理想にならない。

日々の自分の生活をどうするか。
それを一つ一つ解決しながら進むところに本当の理想、地に足の着いた理想といふものは育つ。

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