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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

9年目の3.11(その2)

2020/03/10
世の中を看る 0
20200310-1 

3.11再録の2回目です。
元の記事は2019年3月9日「私は死んだのですか?」です。

ーー ここから再録 ーー

2011年以来、3月11日が近づくと、毎年メディアのカメラは東北に向かふ。
今年も例外ではない中で、一風変はつて興味が引かれたのはNHKの「ろんぶ~ん」。

3月7日の番組では、
「東日本大震災による爪痕の将来性に対する検討―宮城県石巻市における幽霊現象を事例に―」
といふ東北学院大学4年生(当時)の論文を紹介しました。

地震と津波で石巻市は死者3500人に及ぶ被害を出した。

その町で
「亡くなつた人の気配を感じる」
といふ体験談がいくつも聞かれるやうになつた。
(これについては「気遣ふあの世の人たち」でも紹介してゐます)

これに関心を持つた女子学生が石巻に何度も何度も足を運んで地元の人たちの体験談を聞いて回つたのです。

概して人々の態度は固かつた。
亡くなつた人の話は簡単にできない。

「不謹慎だ」
「さういふの、タブーだろ」
と怒鳴られたことも一再ではなかつた。

女子学生はそれでも粘つた。
数百人に聞いて回り、最終的には4人の体験談が「具体的」で「はつきり」してゐると感じた。
なぜか、その4人ともがタクシー運転手なのです。

ある運転手はこんな体験を話してくれたさうです。

震災から3カ月ほどたつた、ある深夜の出来事だつた。
私がJR石巻駅(宮城県石巻市)の近くで客を待つてゐると、もう初夏だといふのに、真冬のやうなふかふかのコートを着た30代くらゐの女性が乗車した。

目的地を聞くと「南浜まで」と一言。震災の津波で、壊滅的な被害を受けた地区だつた。

私は不審に思つて
「あそこはもうほとんど更地ですけど構ひませんか?」
と聞いた。

すると女性は震へる声で答へた。
「私は死んだのですか?」

私が慌てて後部座席を確認すると、そこには誰も座つてゐなかつた。


深夜に風変はりな人を乗せ、今は更地になつた被害地域に行つてくれと言はれる。
こんな体験をすれば、どれほど怖かつたか想像に難くない。

ところが不思議なことに、似たやうな体験をした他の運転手にも共通するのですが、後になつてみると、
「また乗せたい」
といふ思ひになつたといふのです。

調査をした女子学生は多くの人に会ひながら、被災地に3種の人がゐると感じたと言つてゐます。

第一は、いまだに下を向いてゐる人。
物質的にも精神的にも甚大な被害を受けて、うまく立ち直れない人です。

第二は、前を向き始めてゐる人。
新しい生活を作り直さうと頑張つてゐる人です。

そして第三は、立ち直らうとはしてゐるものの、心がついていかない人。
これを女子学生は「グレーゾーン」の人たちと呼んでゐます。
そしてかういふゾーンにゐる人たちが主として幽霊体験をしてゐるのではないかといふのです。

タクシー運転手にそのゾーンの人たちが多いのかどうかは分からない。
ただ、彼らが一旦はゾッとしながらも、後になると「また乗せたい」と思ふ心に変はつたといふのは興味深い。

彼らは震災前から、多くの町の人を乗せて町の隅から隅まで走り回つてゐた。
ところが、その中の3500人があの日を境に突然ゐなくなり、町の様子もあまりに変はつてしまつた。
今でもタクシーを走らせる日々、それが辛くもあり、寂しくも感じてゐたに違ひない。

あの世に行つた人たちからすれば、血のつながりこそないとしても、さういふ町の道を知り尽くす運転手たちのもとへ行けば懐かしい家まで連れて行つてくれるのではないかと期待する。
さういふ気持ちになつたとしても不思議ではなからうと想像できます。

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