生きやすさとは何か
話題の内容もさることながら、その語り口の妙が好きでよく聴くのが
「武田鉄矢 今朝の三枚おろし」
といふ、ころころとよく笑ふ女子アナとの掛け合ひトーク番組。
トークのネタは基本的に武田が読んで面白かつた書物です。
それを素材にして武田なりに論評するのを、身のしまつた魚を料理人が手際よく捌くのに譬えて、
「三枚におろす」
といふのです。
1回5分程度のトークの最後には
「この続きはまた明日、ご機嫌を伺ひます」
と言つて終はることからも分かる通り、武田のセンスは伝統落語の流れを意識してゐると思はれます。
元はミュージシャンでも俳優歴も長い武田の話術は、実際そこらの落語家に劣らない。
特に博多弁で人の会話を再現するときの語り口は絶妙で、聞きながらしばしば唸るほどです。
以前私のブログでも取り上げた話題
「病は市に出せ」
を扱つたトークがあります。
日本には自殺率が際立つて低い地域がある。
なぜ低いのかその理由を探るべく探索に出かけた精神科医の旅行エッセイを取り上げたトークの中で、徳島県海部町での体験を紹介してゐます。
街を歩き回つて分かつてきたことがある。
そのいくつかを挙げると。
①この町では出かけるときに鍵をかけない。
治安がいいので鍵をかける必要がない。
ところが外泊するときには鍵をかける。
常識的にはそれ当たり前だらうと思ふが、この町での理由はその常識を裏切るのです。
半農半漁のこの町では、獲れた魚の何%かを町中に配る。
外泊するのに鍵をかけておかないと、留守の間に獲れたての魚が玄関に山積みになる。
これでは帰宅したとき大変なことになるから、それを防ぐために鍵をかけるといふのです。
②この町では赤い羽根共同募金の寄付率が異常に低い。
人もするから自分もするといふ善意を示し方を嫌ふからです。
③この町では互ひの家の不幸などを町中の人が知つてゐる。
個人情報を保護するといふ必要がない。
④この町には町中に屋根付きのベンチが多い。
バス停などにも大抵屋根のついたベンチがあるが、そこに座つてゐるのはバスを待つ人ではなく、近所の老人たち。
老人たちがいつも何人か寄り集まってはベンチで日がな話をしてゐる。
そこでそれぞれの家の悩みを嘆き合つてゐるのです。
この町には
「病は市に出せ」
といふ昔からの言ひ伝へがあるが、このベンチの風景などはまさにこの伝統です。
かういふ内容を伝えながら武田はこんなふうに言ふ。
「プライバシー保護といふ風潮の中で、我々は自分の中の苦しみをうまく人に伝えられない苦痛を抱へてゐるのではないか」
精神科医は
「生きやすさとは何か」
といふ秘密を探りながらこの町を歩いてゐる。
自殺率の低い町では、立ち話や挨拶程度の付き合ひが8割で、深い付き合ひがあるといふ人が2割弱。
人同士の思ひ入れが強すぎても息苦しいし、疎遠過ぎても寂しい。
難しいものです。
これもいいです。
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