死んでも大丈夫
これまでに何度かご紹介した『おかげさまの法則』。
最後の対談の中で入江富美子さんのこれまた面白い体験談がありましたので、紹介してみようと思ひます。
ちょつとした事故に遭つて、首のマッサージを受けた。
ところがもみ返しでひどく頭が痛み、精密検査をすると脳の大動脈が裂けてゐて「命にかかはります」と告知される。
ベッドが空いてゐなかつたため一晩だけ自宅に帰り、翌日大病院に行つて再検査といふことになつた。
その夜。
家に帰ると、家族に
「アウトやつたわ」
と伝へる。
夫は直観の人で、病院に行く前から
「これはもうだめだな」
と思つてゐたらしい。
入江さんの報告を聞いて最初に反応したのは息子。
「お葬式、どうするん?」
すると夫もそれにつられて、
「葬式どうする~?」
と心配するので、
「おじいちゃんの葬式をしたお寺でしてくれる?」
と頼むと、
「俺、いつぱい人が来てくれても対応でけへんから、身内だけでいいか?」
と尋ねる。
そこへ娘が、
「そんなのママが可哀さうやん。頑張つて来たんだから、お葬式はいつぱい人が来てほしいわ」
入江さんはその夜にもどうなるか分からないから、娘にイベントの予定などをfacebookで知らせてほしいと頼む。
すると
「うん、わかつた。でも、facebookを閉じる(閉鎖する)のにアカウント情報がいるから、教へといて」
と娘。
一応の相談が終はつて、万が一の時には救急車を呼んでくれるやうに頼んで入江さんは寝室へ。
聞くともなく聞いてゐると、リビングから家族の話し声が聞こえる。
夫「しゃあないな、人はいつか死ぬからな」
子どもたち「さうやなあ」
これを聞いて入江さんは嬉しくなつた。
「この家族、最高! 私がゐなくても、生きていける。本当に大好き~」
入江さんは翌日予定通り入院し、死ぬことはなく退院できた。
入院中、不安になることも落ち込むこともなかつたのは、へその奥から、
「だいじょーーーぶ!」
といふミストのやうなものが溢れてきて包まれたから。
そして、
「死んだら天国、生きたらへそ道」
と思つたから、死ぬことがちつとも怖くなかつたといふ。
最初に「命にかかはる」と診断された日の夜、家族たちは入江さんの死をどの程度本気で考へたのだらう。
とても本気とは思へず、ふざけてゐるやうにさえ見える。
見えるけれども、多分正面から受け止めたのだらうと思ひます。
死んでも大丈夫。
人間の本体は肉体ではなく、「みたま」だから。
「みたま」は永遠に死なない。
さういふ考へは入江さんだけでなく、どうも家族みんなの共有認識であつたのでせう。
入江さんに湧いてきた「だいじょうーーぶ」といふ思ひの意味は、
「死なないから大丈夫」
といふことでもあり得るが、
「死んでも大丈夫」
といふことであるかも知れない。
死ぬといふことに、本当にこだわりがない。
しかも本人だけでなく、家族みんながさうだといふのが面白い。
自分は死ぬかもしれないといふ状況で、家族が
「しゃあないな」
と話し合つてゐたら、普通
「なんだ、この家族! 私にはそれほど価値がないのか! 見捨てられた」
と腹がたってもおかしくないでせう。
ところが入江さんは
「この家族最高! 大好き!」
と思ふ。
こんな感じ方もまた、羨ましい。
振り返つてみると、妻の末期に彼女と葬式の相談など私にはできなかつた。
「もうだめさうだ」
とも言えなかつた。
怖くて言えなかつた。
あれから18年経つた今はどうだらう。
「死ねば天国、生きれば○○」
と明るく言へるだらうか。

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