ヒットする説教
NHKの大河ドラマ「いだてん」が早くも一桁といふ低視聴率に陥つてゐるやうです。
ネツト上にはその理由を分析する記事がいろいろある中で、
「偏差値60以上志向に陥るNHKの悪い癖」
といふ記事を読んで、少し思ふところがありました。
偏差値60以上といふのは頭脳明晰な一流大学です。
その人たちを対象にしてドラマを作ると、偏差値50以下の大多数の人たちにとつては構造が難しすぎる。
今の「いだてん」はまさにそれだと言ふのです。
先づ、時代が明治と昭和にまたがつて、場面がその2つの時代を行つたり来たりする。
その上、明治生まれで昭和時代に活躍した古今亭志ん生が、ある時は語り部になり、ある時は登場人物になる。
今どつちの時代にゐるのか、視聴者はしばしば混乱する。
さらには、主人公が2人ゐる。
前半はストックホルムを中心とした金栗四三、後半は東京オリンピックを中心とした田畑政治。
その他にも主役を食つてしまふやうな主要人物が何人もゐる。
視聴者は一人の主役に感情移入したいのに、主要人物が多いと気持ちが定まらない。
最後の指摘は、叙情的ではなく叙事的に過ぎる。
前半で言えば、ストックホルムに参加するかどうか、後半では東京にオリンピックを招致できるかどうかといふ「出来事」が中心的になつてゐる。
これらの指摘をヒントにヒットするハリウッド映画の作り方を分析すると、
① ストーリーは8割の人が見て解る単純な波で作られてゐる。
② 半分くらいの人が反応するやうな、人間の情緒の物語が入つてゐる。
③ 1割以上のレベルの高い専門家たちが「なるほど。凄い」と唸ってくれるような専門的な話もちりばめてある。
といふやうな基本マニュアルがあるさうです。
これにもう一つ私なりに付け加へれば、
④ 上映時間はほぼ2時間前後。よほどの大作力作でない限り、3時間以上の映画は観客の集中力の限界を超える。
なるほどと思ふ。
そして、これは独り映画やドラマに限つた話ではなく、教会の説教にもほぼそのまま当てはまるなと思ふのです。
説教を聞く大半の参加者は、話が専門的だつたり、筋書きが複雑だつたりすると、ついて行けない。
最初は神経を張つてついて行かうとしても、段々と疲れて来る。
しかも説教が20分を超え、30分、40分に及べば、集中力の限界を超える。
1時間を超えてしまへば、ほぼ論外になる。
映画であれば、観客の関心を惹きつけるために、大抵は始まつて間もなくに第一の大きな出来事を持つてくる。
しばらく物語を流した後、緊張がゆるむ頃に第二第三の波を作る。
どんな派手なアクションや珍しい物語でも、叙事的だけでは観客は満足できないので、必ず男女の愛や人間同士の情緒的な絡み合いを挿入する。
そして上映1時間半を過ぎると、観客はもうそろそろ物語は大団円に近づいてきたなと心積もりをしながら、どんな結末になるかを期待し始めるのです。
説教は、テーマを必ず一つに絞る。
出来れば今日話す説教のテーマが何かを冒頭に示すと、参加者はそのテーマに沿つて話を聞くことができて、筋書きが頭に入りやすい。
なるべく難しい用語は多用しない。
原理用語や教会用語はベテラン会員には了解できても、新しい人には分かりづらく違和感もあり得る。
用語も平易を心がけ、テーマ自体も平易を心がける。
観念的であつたり哲学的であり過ぎると、参加者は自分の生活との関連性が見つけづらく、関心を維持するのが難しい。
特にパワーポイントなどのビジュアルを使はず話だけで進める説教はよほどうまくしないと、前後の言葉をつなぎ合はせて脈絡を掴むのは、参加者にはかなりのエネルギーを要するものです。
また、平易なだけでもいけない。
参加者の多くが知らなかつたやうな高度な知識、あるいは鋭い分析、深い情緒的な感覚などがあつてこそ、「なるほど、凄い」と感じて、説教の内容を受容しやすくなるとも思はれます。
短い説教の中にも、一つか二つは具体的な事例、特に情緒に響くやうな例話を挿入する。
聞く人にとつてはさういふ話が深く記憶に残りやすいので、説教者はさうならないやうにテーマのポイントを例話と同程度にインパクトがあるやうに配慮する必要があります。
説教をエンタテインメントと並べて論ずるのはどうかといふ考へもあり得ます。
しかし、説教も一定時間多数の人を集めて何らかのメッセージを伝えようとするものだと考へれば、その人たちの時間をより価値あらしめるためには、メッセージの伝達性を高める工夫はあつて当然だと言へます。
説教者切磋琢磨の材料になればといふ思ひから、少し分析してみました。

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