いじめをやめないのは、脳なのか
「人はいじめをやめられない」
と、脳科学者、中野信子さんは、脳科学の観点から言う。
集団をつくることによって生き延びてきた人間は、集団の秩序を維持し、外敵から守るために、異分子を制裁・排除せざるを得ない事情を抱えている。
そういう事情の中で、過剰な制裁が行われるとき、それが「いじめ」として現れる。
脳の仕組みから考えても、それが仕方ないとするなら、せめてできることは、脳の仕組みをうまく利用して、少しでも「制裁・排除行動」を緩和する方法を考えよう。
中野さんは、そう考える。
中野さんによると、いじめに関わる脳内物質に3種類あります。
第一は、オキシトシン。
これは「愛情ホルモン」とも呼ばれるもので、相手との親近感を感じさせ、人間関係を促進するホルモンです。
共同社会を作るのに欠かせない側面がある一方で、仲間意識を高めすぎてしまうと、妬みや排外感情も同時に高めてしまう。
第二は、セロトニン。
これは「安心ホルモン」と呼ばれます。
分泌されたセロトニンが余ると、それをリサイクルして使い回すたんぱく質「セロトニン・トランスポーター」と言うものがあります。
このたんぱく質が多い人は、セロトニンをたくさん使い回せるので、多少のリスクがあっても、楽観的に通過できる。
反対にこれが少ないと、不安傾向が強くなり、リスクを想定して、事前にそのリスクを取り除こうとします。
第三は、ドーパミン。
これは有名は「快楽ホルモン」です。
所属集団を維持するために、異分子に罰を与える。
これを集団のための「正義の行使」だと考えると、それに快感と感じるのです。
脳にこのような生得的な機能や傾向があるとすれば、
「いじめゼロ」
というようなスローガンは、それこそ達成確率が限りなくゼロに近い。
そこで、中野さんの問題提起は、
本気でいじめを防止しようと考えるのであれば、
「いじめが止まないのは、いじめが『やめられないほど楽しい』ものだからなのではないか」
という、考えたくもないような可能性を、あえて吟味してみる必要があるのではないか。
という、ちょっと危うい観点に至るのです。
信心家なら、
「いじめは、前世の因縁」
あるいは、
「悪霊の働き」
などと考えるかも知れません。
霊界原因説です。
それと比べていえば、中野さんの説は、
「脳原因説」
とも言える。
前説は、目に見えず、計量も証明も不可能。
後説は、物質次元なので、計量も実験も可能でしょう。
その分、説得力もありそうに思える。
それでもしかし、両説ともに、
「本当にそれだけで説明できるかな?」
という気がします。
後者については、どこをどう補完説明すればいいのか、今の私にはまだ上手くまとめられないのですが、どうも違和感を拭えない。
敢えて言えば、
「これでは、人間の思考と行動が、脳内ホルモンという物質にコントロールされているようではないか」
「脳という主人に、私が従属しているのか」
「脳内ホルモンという物質を分泌する主体がいるのではないか」
というようなわだかまり。

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