考える皮膚
『皮膚は「心」を持っていた!
によると、人は皮膚でも考えるらしい。
人間は「腸」で考える、という話もよく聞くので、人は脳を都合3つ持っているということになります。
イギリスの人類学者アシュレイ・モンターギュは、
「皮膚は身体でもっとも大きな感覚器官である。皮膚を構成しているさまざまな要素は、脳と非常に似た機能を持っている」
と述べているそうです。
確かに、視覚なら目、嗅覚なら鼻、聴覚なら耳、味覚なら舌、というふうに局部的に限定されるが、触覚はほぼ全身です。
そして、他の4覚はすべて触覚から派生する。
例えば、赤ちゃんは目に入るもの、手に触れるものを何でも舌で舐めてみようとする。
それは、舐めてみることでそのものの形状や硬軟などを確認しようとしていることであり、その感触をもとに、
「丸いとはこういう感触の形なんだ」
という認識を形成するのです。
さらに、皮膚は「自他」の区別を意識する境界線となっています。
皮膚の内側が「自分」であり、その外側が「他者」だと、普通には意識しています。
この時、意識する主体は皮膚そのものなのか、それとも第一の脳なのか、よく分かりませんが、ともかく皮膚の内側の狭い世界を「自分」と意識しているのです。
ところで、その皮膚が膨張して、あたかも「自分」というものが拡大したような感覚を持つ体験を、我々は日常的にしています。
人にはそれぞれ「自分」を守る「パーソナルスペース」という個人空間がある。
一番広いのが「公的ゾーン」と呼ばれる公衆レベルの距離。
大体3.5m以上の距離で、演説や講演会をするレベルです。
逆に最も狭いのが「親密ゾーン」で、恋人や家族など、親しい間柄だけで許容される、45㎝以下の距離です。
この、手を伸ばせばすぐに相手に触れることのできる空間はペリパーソナルスペース(近位空間)と呼ばれ、その中にある人や物を、あたかも自分の体の境界である皮膚が膨張して、まるで自分の体の一部であるかのように脳が感じてしまうのです。
そうすると、自分のエネルギーが増すような感覚が生まれる。
親しい人がそばにいてくれるだけで、あるいは手を握っていてくれるだけで、今の困難を乗り越えられそうな気がしてくるのは、このエネルギーのお蔭だというのです。
原理では、主体と対象との授受作用によって、あらゆる力が生じるといいます。
これは主体と対象とが授受作用をしながら親密度を増していき、次第に接近して、お互いの自他の区別がつかないほどになったときに、相手が自分の一部になったような感じがして、エネルギーが増大するというふうにも考えられます。
このとき、皮膚というものが第3の脳として重要な役割を果たしている、というのは、面白い知見です。

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