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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

でも、私のロバだわ

2017/05/08
読書三昧 1
20170508 

「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」


これは短歌です。
そのつもりで読めば、字数がぴったり合っていることが分かります。

この歌の作者、穂村弘のことを教えてくれたのは息子。
「そんな歌人がいるのか」
と反応すると、やや冷ややかな息子の視線を受けました。

息子が貸してくれた『世界中が夕焼け―穂村弘の短歌の秘密』の中には、穂村の歌50首が採録されており、その一つ一つに別の歌人山田航と穂村本人の注釈が付いている。
50首の中にはいろいろと趣きの違った歌がありますが、冒頭の歌はかなり非伝統的で、トリッキーな歌です。
内容も形式も相当トリッキーなのに、字数はきっちり伝統に則っている。
そこに面白みを感じるのです。

恋人同士で酒を飲みながら、ふざけ合っている。
男は相当に酔いが回った様子なので、女が、
「私が誰か、わかってる?」
とふざけて尋ねる。
すると男はからかい返すように、
「ブーフーウーのウーだろ?」
と答える。

ブーフーウーというのは3匹の子豚の兄弟。
私の世代には懐かしいが、若い世代には通じないかもしれない。
狼が来るというので、長男のブーは藁の家、次男のフーは木の家、そして末っ子ウーはレンガの家を作った。
2人の兄の家は簡単に壊されたが、レンガの家は頑丈なので残ったという話です。

だから、男の答えは、
「酔っぱらった僕が見るに、君は小太りの豚のようだが、豚の中でも賢いほうの豚だと思う」
と言っていると読めます。

つまりは
「けっこう可愛いよ」
と言っているのです。

この歌の注釈の中で、穂村は面白い小説の一節を紹介しています。

ロバート・B・パーカーという米国の小説家の作品の中で、女が彼氏を揶揄して「愚かなロバ」だと言う。
これはちょっときわどい言い回しです。
ところが、男は、
「君がキスをしてくれれば、愚かなロバが王子様に変わるかも」
と言い返す。
西洋だからアンデルセンのような世界です。

それで女が男にキスをするが、
「失敗だわ」
と言う。
「キスをしたけど、あなたは相変わらず愚かなロバよ。でも、私のロバだわ」

「こういう恋人同士の会話には『スイート感』がある」
と穂村は言う。

同じようなスイート感だとしても、パーカーがそれを散文で表現したのに対して、穂村は韻文で、しかも31文字ぴったりの伝統的な形で表現して見せる。

「日常会話には、けっこう素晴らしい31文字が潜んでいるじゃないか」
という驚きの発見をして見せる。

「日本語って、面白くて、美しいな」
と思う。
そのように感じさせてくれる歌として、歌人のセンスに脱帽するのです。


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Comments 1

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tenmondai

No title

私も最近俳句にハマっています。何十年ぶりかに「奥の細道』を読んでます。

2017/05/09 (Tue) 08:22