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まるくまーる(旧・教育部長の講義日記)

商売は分離の力をはらんでいる

2017/01/08
世の中を看る 0
20170108 

中国は今や、世界最大のネット通販大国になったという。
(「巨龍中国」NHKスペシャル)

「14億の消費欲をネット通販のテーブルに乗せよう」
と、中国政府が大号令をかけていると番組は伝えています。

その主役になろうとしているのが、大学を卒業した若者たち。
チャイナ・ドリームを目指す野心家たちの姿を番組は密着取材で描き出す。
そこは熾烈な競争社会です。

中国最大のネットショップサイト「陶宝(タオバオ)」は、そこに登録しているショップをすべて評価登録しています。
ショップは商品を売れば、購入者から評価をつけられる。
高評価なら+1点、低評価なら-1点。
それで高得点を積み上げたショップは陶宝サイトで上位に表示される仕組みです。

すべてのショップが狙っているのが、「独身の日」。
「1」の数字が4つ並ぶ11月11日がその日です。
その日に向けて、すべてのショップは陶宝でより上位に位置したい。
上位にいればいるほど、サイト訪問者の目に留まりやすくなり、それでアクセス数が上がれば、売り上げも上がる。

ところが、購入者層の中にも曲者がいます。
購入した商品に何かと難癖をつけて、
「高評価をつけてやるから、キャッシュバックしろ」
と要求する。
これを「返現」と言います。

このままでは評価はマイナスになる。
ショップ運営者は得点を上げたいから、苦悶する。
特に、独身の日が間近になると、何とかそれまで高位置に留まりたいがために、その要求に応じざるを得ない。

商売の世界には、この中国のネット通販に限らず、似たようなことはいくらもあるでしょう。
それでも、より短期間により大きな利益を上げようとすれば、こういう泥沼を泳ぎ切っていかねばならない。

なぜそこまで利益を追求するのか。
運営者には妻がいて、子どもが生まれる。
増える家族を養っていかねばならない。
それも最低ぎりぎりの生活ではなく、できるならより豊かな暮らしをしたい。
そう思うのは、誰しも同じでしょう。

贈与はものを結びつけるエロスの力を持っている。... それとは反対に、売買は分離の力、すなわちロゴスの力をはらんでいる
(『純粋な自然の贈与』中沢新一)

贈与は人と人とを結びつけ、商売は人と人とを分離する、というのです。
「返現」というやり取りを見れば、確かに「売る人」と「買う人」との間には物理的にはもちろん、心理的にも相当な距離がある。
距離がないとこんなやり取りはできないのです。
それで、より多く売ろうとすればするほど、この両者の距離は遠くなる。

ところが、このような分離の世界で死力を尽くそうとする理由は、贈与の世界で安息の場所を作り出したいからなのです。
つまり、きつい商売をして利益を上げようとする目的は、家族という親密な関係の中で思う存分に贈与の喜びを感じるところにあるのです。

家族の中では商売をしません。
夫が苦労して作り出した利益は、値なしに家族に与える。
これが贈与です。
贈与は喜びです。
家族に無償で与えれば与えるほど、喜びは大きくなる。
しかし、この喜びを享受するためには、分離の世界で利益を上げなければならない。

「巨龍中国」を見ながら、少し重い気分になりました。
分離の力と和合の力をもう少しうまくバランスさせる良い方法はないものでしょうか。


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