もしかして、私も病気かもしれない

いつまでたっても、
「精神」
というものについて考えると、よく分かりません。
精神というものは、一体どんな構造になっているのか。
どうしてあれほどに複雑で奥妙な働きをするのか。
今日、ある婦人と話していると、その方がこんな話をするのです。
学校の先生が入学間もない生徒たちに、
「始業のベルが鳴ったら、先生がすぐに来て授業を始めるのですから、ベルが鳴ったらすぐ席に就きなさい」
と指導する。
すると初めのうちは、先生がベルと同時にすぐに教室に来るものと思うから、生徒たちはベルが鳴るとさっと席に就いている。
ところが、実際には、ベルが鳴っても先生はすぐにやってこないことが多いのです。
すると、生徒たちはだんだんと要領をわきまえてきて、ベルが鳴ってもすぐには席に戻らなくなる。
友だちと話したり遊びまわったりしながら、うまい角度から先生の気配を感じたら、さっと席に就く。
そういう要領を、全く自然に身につけるようになるのです。
これは、人の言葉と実際の現実の動きの間は必ずしも一致しない、往々にして乖離があるということを悟るわけです。
そして、支障がない程度にその乖離をうまく弄ぶ。
これは何も特別に緻密な計算をして行う行動ではなく、いつの間にかできる行動なのです。
ところがここに、一人だけ一風変わった生徒がいます。
彼は最初に先生が言った言葉から一寸も離れないのです。
先生が、
「ベルが鳴ったらすぐに来る。だからすぐ席に就いておきなさい」
と言ったのだから、きっとその通りだと思い込むのです。
実際先生が少し遅れてくるのは、問題ではありません。
先生の言葉が絶対基準なのです。
それで、他の生徒たちがベルが鳴っても遊びまわっているのが、我慢ならない。
「先生がベルと同時に席に就けと言ったのに、なぜこいつらは席に就かないんだ」
という批判心に身悶えするのです。
そこで、
「◯◯君と△△ちゃんは、ベルが鳴っても遊んでいました」
と先生に報告する。
クラスメートは、当然眉をひそめます。
そして、彼と彼以外のクラスメートとの間には、溝が生じるようになるのです。
彼のような人を、最近では、
「アスペルガー症候群」
と呼んだりもします。
それは一種の精神的な障害であり、病気であると分類されます。
私はこんな話を聞きながら、
「どうして普通の子どもたちは、こういう複雑なことをいとも自然にやってのけるのだろう」
と、改めて人間の精神のハイスペックなことに思いをいたしました。
こういう機能が十分に働かないのを、能力の問題ではなく障害だと見做すのが現代の知見なのでしょう。
と同時に、
「私は自分のことを正常だと思い込んでいるが、どこまでが正常で、どこからが病気だと、誰がどうやって線を引けるんだろう?」
と考えました。
そしてふと、
「もしかしたら、私も病気なのかも知れない」
という思いもよぎりました。
話に出てきた生徒には、かなり強い「拘(こだわ)り」があるのです。
「先生が最初に言った言葉は絶対だ」
そう思い込むので、その基準から外れる行動はすべて「許せない」行動になるのです。
他の生徒たちには当たり前な、言葉と現実のファジーな関係を本能的に理解できないのです。
ある一つの考えが頭の中に固定されると、次に生じてくる新しい考えを受け入れることが極めて難しい。
普通の人間がほとんど瞬時にやってしまうことを、その人は1年かけても2年かけても難しいのです。
ところが、私にも彼とはまた違った厄介な「拘り」がいくつもあるような気がする。
それが、
「自分ももしかして病気かもしれない」
と思った理由のようです。
原理を学んでみると、
「あなたたちはみんな病気です。堕落性という精神障害を持っています」
と言われたようなものです。
しかしその時、
「私は堕落性という病気だから仕方ない」
というふうに考えることを許されません。
「これはどんなことをしてでも、必ず克服して治さなければならない」
という処方箋をもらうのです。
しかし、この病気を治すことは容易ではありません。
容易に変えることのできない「拘り」がいくつもあり、5年たっても10年たっても、目覚ましい改善の兆しがなかなかないのです。
神様は本来、人間の精神をうまく造られたのだろうと思います。
「拘り」に縛られることなく、どんな状況にも絶対の基準を持ちながら、ファジーにも対応できる。
そんな精神が、堕落によって、どこがどう壊れたのだろう。
容易に治せる病気ではないのですが、少なくとも、
「病気だから仕方ない」
と諦めることはできません。
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