守りに入るな、攻めのおもてなしを目指せ
「コンシェルジュ」
という職業は結構たいしたものだと、昨日のNHK番組「プロフェッショナル・仕事の流儀」を見て思いました。
主役は東京六本木の超高級ホテルのチーフ・コンシェルジュ、阿部佳(あべけい)さん。
一流コンシェルジュのみ入会が許される世界組織「レ・クレドール」で、現役にして名誉会員に認定されている、ただ1人の日本人だそうです。
コンシェルジュは、ホテル宿泊客のあらゆる要望を伺い、即座に案内するのが仕事。
宿泊客の要望は、文字通り千差万別です。
英語は堪能でなければならないし、東京を中心としたかなりの距離の範囲のさまざまな情報に即座にアクセスできる能力も求められます。
5年6年とその仕事に励めば、それなりにうまく要望に対応できるようにはなります。
しかし、阿部さんはもう一つ、その上を目指してほしいと考えるのです。
「守りに入るな。”攻めのおもてなし” を目指せ」
大体、おもてなしに「攻め」というものがあるのでしょうか。
「守りのおもてなし」というのは、無難な対応です。
「この辺りにラーメンの◯◯屋はないか?」
と聞かれたら、ささっと場所を探して行き方を教える。
そのラーメン屋はその客の国にも出店している人気のチェーン店です。
馴染んだ味を東京でも食べたいと思ったのでしょう。
「いってらっしゃい」
と送り出したものの、なぜかその客は何か浮かない顔で、すぐに出かけない。
その様子が気になって、阿部は近づいて、もう一つ尋ねてみるのです。
「◯◯屋とは違う美味しいラーメン屋もございますよ。もしご希望でしたら、他の店もご案内いたしましょうか?」
すると、その客は首を縦に振る。
違うラーメンも食べてみたいと思ったが、なぜかそれを聞くのが恥ずかしくて聞けなかった。
それでつい、馴染みのラーメン屋の名前が口をついて出たのです。
iOSにも「siri」という、なかなか頭の良いコンシェルジュがいます。
試しに、
「あなたは誰ですか?」
と尋ねると、
「私が誰かなんて、どうでもいいことです」
と答えます。
阿部はこういう対応の、もう一つ先を目指したいと考えるのです。
それは、
「お客様の言葉の、そのもう一つ向こうにある ” 心 ” を読むこと」
です。
本人が言葉にもせず、意識もしていないかもしれない「心の中の願い」を見逃さない、ということです。
技量のついたコンシェルジュでも、無難なおもてなしはできるのに、なぜ ” 攻め ” のおもてなしができないのか。
相手の心の中に入っていくことへの ” 恐れ ” があるような気がします。
「ここまでやれば、嫌がられるのではないか」
「そんなことを期待しているのではない、と反感を買うのではないか」
そういう恐れがあると、ついつい「プラスα」を差し控え、無難な対応に終わってしまうのです。
「歌舞伎を見に行きたいので、チケットを取ってほしい」
と言ってきた客。
電話していみると、席は満席。
それでもねばって頼み込むと、何とか人数分の席を確保できた。
ここまですれば、コンシェルジュとしては良い仕事をしたと言えます。
ところが、なぜかその客は、さほど嬉しそうでもなく、感激的なお礼もしてくれない。
当のコンシェルジュのほうも、何か今ひとつ喜びに満たされない。
この辺りは、難しいところです。
これは、独りコンシェルジュという仕事に限ったことではないでしょう。
あらゆる形のサービス業でも同じ。
否、あらゆる人間関係にも当てはまるような気がします。
相手の願いを、懇切な思いで聞いてあげる。
それを果たしてあげようと、一生懸命に努力する。
しかし、言葉にならない「何か」がまだ相手の心にはあるのではないか。
それを察して、それにまでアプローチしてみる。
すると、
「そんなの要らぬお節介だ」
と言われるかも知れない。
しかし、もしかしたら、相手の心の琴線に触れるかも知れない。
「あなたに相談してみて、よかった。ここに来て、よかった」
相談してみたら、思っていた以上の「おもてなし」を受けた。
そう思ってもらえるような「攻めのおもてなし」ができれば、お互いに喜びがあるでしょう。
コンシェルジュの仕事はとても奥が深いように、私の日常の人間関係もすべて奥が深いものです。
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No title
私もこの番組見ました。
お客様の言葉の奥にある心を読むっていうのは、私の職業上とても大切なことですから。でも、どこまで踏み込むかはものすごく難しいです。
お客様の方を見ないで、お客様と同じ方向を見るとも言っておられました。経験・センス共に必要です。
伝道もそうかなと思いながら見てました。