息子に聞いたアルジャーノンの数奇な物語
1年ぶりに帰ってきた息子が最初に教えてくれたのは『アルジャーノンに花束を 』。
1ヶ月ほど前、「本が読みたい」と乞うので、アマゾンから買って送った中の1冊です。
送られてきたものを全部読んだ中で、これが一番良かったと言って、30分もかけて小説の内容を緻密に教えてくれました。
ある時期から小説の類をほとんど読まなくなった私に対して、今や読書欲最高潮の息子。
彼の詳細で的確な解説を興味深く聞きました。
主人公は知的障害のある32歳の男性、チャーリー・ゴードン。
ある時彼に夢のような話が舞い込んできます。
知能を高める実験的手術を受けてみないかというのです。
この手術は成功し、チャーリーの知能は急速に高まり始めます。
すると、今まで分からなかったことが分かり始め、気づかなかったことに気づき始めます。
勤めていたパン屋の同僚たちは、単に親切なのではなく、心の中ではバカにしていた。
雲の上の人のように尊敬していた大学の先生たち(彼らが手術を施してくれた)も、実はさほど立派な人ではなかった。
彼の知能は天才の域にまで達します。
彼と同じ実験手術を受けたのは、マウスのアルジャーノン。
彼もマウスなりに知能が高まっていくのですが、あるピークを超えると、急速に知能が元に戻っていきます。
その現象を見たチャーリーは愕然とします。
「自分もいずれ近いうちに、同じ運命をたどる」
ということがはっきりと分かるからです。
そして実際、日に日に知能は旧に復して行きます。
昨日まで分かったことが、今日は分からなくなるのです。
SF的な筋書きで、実際にはあり得ないことでしょうが、息子の解説を聞きながら、作者が抱いていたテーマの面白みが感じられました。
チャーリーの知能が上下するのは彼自身の変化です。
しかし、彼が変化するのに伴って、彼を取り巻く人間関係も変化します。
知能が低い時には、周りの人たちの悪意も善意もよく分かりません。
バカにされていてもそれが分からなかったのに、知能が上がると分かるようになります。
それはチャーリー自身にも心の痛みを生むでしょう。
しかしそれと同時に、周りの人たちの態度にも変化を生むのです。
それまでは、「我々よりも下」と思っていた相手が、急速に知能を高めると、「我々よりも上」になるのです。
しかしそういう状況を、プライドは受け入れたくありません。
必然的に、チャーリーと距離を置くようになります。
私がどういう人間であるかによって、私を取り巻く人たちとの人間関係も必然的に変化するのです。
チャーリーの変化は現実にはあり得ない特殊な変化のようでありながら、考えてみると、我々すべてが似たような道を辿るようにも思えます。
ある年齢まで、我々は心身ともに成長します。
しかしまず、体のピークが来て、その後は不可逆的に衰えていくのです。
耳が次第に遠くなり、相手の言葉を聞き返すことが増えていきます。
「もう少し頑張ろう」と思っても、頑張りが効かなくなります。
そのあとに続いて、心の機能もピークを越えると、次第に衰え始めます。
新しいものへの好奇心は弱くなり、記憶力も明らかに落ちていきます。
「若い時には一度聞いたら忘れなかったのに、今はどうしてこんなにも忘れるのか?」
と、自分で自分が嫌になったりもします。
そのために迷惑を被った相手も、何となく嫌な顔をしているように見えます。
こういう感じは、ピーク前の人には分からないものです。
我々の人生は、初め成長し、ピークを迎え、その後は衰える。
チャーリーの変化は、それを劇的な形で見せてくれただけです。
しかしこれは神の創造原則なのですから、仕方ありません。
そうなるにはそうなるだけの理由と目的があって、神様はそうされたのでしょう。
チャーリーは自分が迎えるべき運命をはっきりと悟った時、後世のために自分自身の変化を克明に記録として残そうと努めました。
衰えたとしても、それを克服して余りあるほどの内的な財産をいかに多く残しておくか。
それが我々の心得ておくべき第一条だと感じます。
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