今回は勝ちなさい
阿川佐和子さんのベストセラー新書『聞く力』に、レスリングの浜口京子選手にインタビューした時に聞いたエピソードが紹介されています。
興味深いので、一部要約して抜粋します。
☆☆☆
アテネ五輪の準決勝で電光掲示板にポイントが正しく表示されず、浜口選手が延長戦だと思っているうちに、負けの判定が下された。
結局、その後の3位決定戦に勝利し、銅メダルを獲得したのですが、この2つの試合の間に母親とのやり取りがあったのです。
負けの判定が降りた瞬間、浜口選手は事の次第を理解できず、ボーっとして、取り敢えず審判に抗議してみたものの、取り合ってもらえず退却しました。
3位決定戦はそれから6時間後です。
選手村に戻って気持ちの整理をしようとするのですが、
「どうしてこんなことになったんだろう」
という思いから抜け出せません。
そこで浜口選手は家族に電話をした。
すると母親が電話に出て、こう言うのです。
「京子は世界(世界選手権)でゴールドを取った女なんだぞ。堂々と戦いなさい!」
その一言で、はっと目が覚めます。
「あっ、そうだ。こんなところで落ち込んでいる場合じゃない」
という気持ちになったのです。
さらにお母さんがもう一言、こう言います。
「私は今まで勝てって言ったことはないでしょ? でも、今回は勝ちなさい。銅メダルを取りなさい。あなたは前の試合でよくやったのよ」
浜口選手の目から涙が流れました。
そして3位決定戦に臨んだ時には、
「ああ、また試合ができるんだ! 嬉しい!」
という気持ちになるくらい元気になっていたのです。
☆☆☆
人が落ち込んでいるときにかける一言は、難しいものです。
「気にするな」
と言ったら、
「お母さんには他人事だからそんなふうに言えるのよ。私の気持ちが分かりもしないで、勝手なこと言わないで」
と怒られるかも知れない。
反対に、
「頑張りなさい」
と励ませば、
「もう十分頑張っているわよ。何をもっと頑張れっていうのよ」
と逆切れされるかも知れない。
私もその昔、精密検査から帰ってきた妻が涙ぐみながら、
「ガンだって言われた・・・」
と言った時、とっさに何と言っていいか分からず、
「大丈夫・・・きっと治るよ」
と言ってしまったことがあります。
何の根拠もない言葉だということを、自分でも分かりながら。
だから当然、妻も、
「どうしてそんなことが言えるのよ・・・」
と、さらに心を乱してしまったのです。
落ち込んだ浜口選手の心をピンポイントで活性化したお母さんのあの一言。
どうしてあんな言葉が瞬時に出るのか、感嘆するばかりです。
阿川さんの言う通り、宝くじに当たるよりも難しい。
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